

1.首相に保守の心はつかめない
7月10日、参院選に大勝した自民党の岸田総理は、党本部の開票センターからテレビ各局の番組に相次いで出演し、政権人事について「有事の政権運営をしなければならない。結束を大事にしていきたい……選挙結果を受けて今後の政治日程を考えたい。その上で人事などのタイミングを考えていく」と述べました。
政府・与党は、参議院の新しい議長、副議長を決めるための臨時国会を8月3日に召集し、会期は5日までの3日間とする方向で調整を進めていますから、党人事および閣僚人事はその後ということになります。
閣僚人事では、安倍派の松野官房長官、岸防衛相の処遇が焦点と見られ、党人事では茂木派会長の茂木幹事長のほか、無派閥の高市政調会長の扱いが注目されています。
岸田総理は、11日の会見で、安倍元総理の「思いを受け継ぐ」として憲法改正に取り組むと述べていますけれども、党関係者は「首相に保守の心はつかめない。『安倍後』の政局は全く読めない」と漏らしているそうです。
岸田総理は人事について、結束を重視するといっていますけれども、焦点の安倍派自体「結束」するために「安倍」の名を残し、更に、後継会長もおけず集団指導体制です。
それほど大きな存在であり、重しともなっていた安倍元総理が居なくなった今、党内保守派を岸田総理が抑えられるのかという懸念もあります。党関係者は「首相に保守の心はつかめない。『安倍後』の政局は全く読めない」と漏らしているそうです。
2.岸田覚醒
7月14日、作家の百田尚樹氏は自身のYoutubeチャンネルで、岸田総理が原発再稼働を表明したことについて取り上げました。
百田氏は「原発を稼働させることに反対する勢力は、自民党内にも多数いる。その理由は太陽光発電に切り替えようとする文化人や評論家の意見が出てきているため」とし、その背後には「ナカコク」が糸を引いていると指摘。その深い闇を切り裂いて稼働に踏み切ったことに「反対勢力に負けないで凄い頑張ったと思う。これは覚醒の第一歩なんじゃないか」と決断を称賛しました。
百田氏は、これまでの岸田総理について「安倍晋三さんがなんとかしてくれるという甘えがあったんじゃないか」とし、「初当選の同期であったものの、安倍さんに政界での立ち位置、人望、人脈など全ての面で全く歯が立たなかったため、頼っていた部分が多かった。その安倍さんが亡くなったことで、覚醒する機会を得たんじゃないか」と推察しています。
そして、岸田総理が銃撃後の会見で涙を流していたことに「自分の感情を表に出さない人が泣いていた。これは人間が変わるときのきっかけになる」と述べています。
筆者は7月12日のエントリー「安倍ロスの衝撃と追われる者」で、安倍元総理の喪失は岸田総理に心境の変化を促し、もしかしたら「覚醒」するかもしれないと述べましたけれども、これは、百田氏とほぼ同じ見方のように思います。
3.政治家が教団に求めるのは票集めではない
もし、岸田総理が「覚醒」しかけているのなら、それは組閣にも影響すると考えるのは自然なことです。けれども、ここにきて影を落としつつある問題が浮上してきました。旧統一教会です。
旧統一教会は、安倍元総理を暗殺した山上容疑者が昨年9月に安倍元総理が統一教会の関連団体「天宙平和連合(UPF)」のイベントに出席した動画を見て殺害を決意したと供述したことから俄かに注目を集めています。
2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で主筆を務めるジャーナリストの鈴木エイト氏は、長年の調査によって旧統一教会と関係のある国会議員112人のリストアップ。それを日刊ゲンダイが報じました。
リストでは自民党議員が圧倒的に多く、衆院議員78人、参院議員20人が統一教会系の団体等との何らかの関わりがあったとされ、野党でも立憲民主党6人、日本維新の会5人、国民民主党2人が関わりを持っていたとしています。そのうち閣僚、党幹部の経験者だけでも34人に上るというから凄まじい数です。
鈴木エイト氏によると「統一教会との関わり方は様々ですが、議員本人のイベント出席や秘書の代理出席、祝電など、教団系メディアの生配信やネットに残っている公開資料等で確認できたものをリスト化しています。公になっていないだけで、関りのある議員は他にもいると考えられます」とのことですけれども、ここまで関係しているとなると、癒着や利益誘導、利益供与されていないのか気になってきます。
鈴木エイト氏は「政治家が教団に求めるのは『票集め』ではありません。選挙戦での運動員、事務所スタッフなどの『人的貢献』です。それは政治家が何よりほしがるもので、教団は無尽蔵に提供してくれるわけです。政治家と旧統一教会――その関係は、世間一般の人たちが思うよりも、ずっと深いものなのです」と指摘。
更に「以前だったら、これほどの関係が発覚すると大騒ぎになりましたが、、第2次安倍政権以降、親密な関係が発覚しても報じるメディアはほとんどなく、大した問題にならないとタカをくくっていたと思います。教団系のイベントに来賓参加するなどした議員の政務三役への登用も顕著になりました。『頼まれてメッセージを送るくらいよくあること』と擁護する声もありますが、政治家の影響力を考えれば、これだけ問題のある団体に祝電を送ればお墨付きを与えることになる。これが新たな被害を生むかもしれないということは少なくとも考えるべきでしょう。『統一教会の関連団体とは知らなかった』では済まされません」と述べていますけれども、統一教会は韓国系の宗教団体ですから、もしそのような癒着があれば、その深さにもよりますけれども、一種のサイレント・インベージョンといえるかもしれません。

4.試金石となる岸田改造内閣
冒頭で、岸田総理は8月に内閣改造と党内人事を予定していることに触れましたけれども、今、永田町では、旧統一教会との関係をチェックすると、「入閣候補者は誰もいなくなる」というブラックジョークが囁かれているのだそうです。
政界の人事には、スキャンダルの有無を調べる「身体検査」が行われるのが普通ですけれども「統一教会関連の団体から選挙支援を受けていないか、集会に参加したことがないか」なども検査項目に加えられた場合、該当しない自民党議員が少なく、「人事が成り立たない」という状況のようです。それどころか、関連が全くない議員を探す方が難しいのでは、との指摘もあるほどです。
これは、前述した鈴木エイト氏のリストで自民党で98人も旧統一教会に関わっているのをある意味裏打ちしているようにも見えます。
ある永田町関係者は「統一教会ではなく、関連団体の勝共連合という形での支援も多い。自民党議員にとって選挙では非常に便利で、ボランティアも頼みやすく、関係者が議員秘書になっているケースもあると聞きます」と述べていますけれども、旧統一教会に関わっている議員を完全排除してしまったら、まともな組閣は出来ないでしょう。
これは、内閣改造と党人事を控えた岸田総理にとって非常に頭の痛い問題です。
あるいは岸田総理は、なるべく大臣候補の中から旧統一教会と比較的付き合いの薄い議員をピックアップするのかもしれませんけれども、保守派や安倍派議員を干してしまうと、今度は政局になる可能性がありますし、なにより先述の百田尚樹氏が指摘する党内の「ナカコク」の息の掛かった議員が幅を利かしてくることも考えられます。
サイレント・インベージョンでは「ナカコク」の方が本家本元なのですから、こちらのほうを余程注意する必要があると思います。
つまり、何をどう選択しても、批判を受けることは確実で、これまでのように「何もしない」ことで批判を避ける手口は使えなくなります。組閣はしないわけにはいきませんから。
果たして岸田総理が「覚醒」しているのか否か。8月の組閣はその試金石になるのかもしれませんね。
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