ノルドストリーム1再稼働

今日はこの話題です。
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1.ノルドストリーム1再稼働


7月21日、ロシアのEU向けガス輸出の3分の1強を担う「ノルドストリーム1」は10日間の定期検査を終え、ガス供給を再開しました。

ノルドストリームとは、欧州のバルト海の下をロシアからドイツまで走る海底天然ガスパイプラインのシステムのことで、ノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味があります。ロシア北西部のヴィボルグからドイツ北東部のグライフスヴァルト近郊のルブミンまでの2本のパイプラインを持つ「ノルドストリーム1」は、年間550億立方メートル強の輸送能力があります。

「ノルドストリーム1」は、ロシアの国営企業ガスプロムを大株主とするノルドストリームAGが所有・運営しているのですけれども、予定通りガス供給が再開されるのか危ぶまれていました。

前日20日、イラン訪問を終えたロシアのプーチン大統領は記者団に、カナダで修理した「ノルドストリーム」用のタービンについて「修理を終えた後、どのような品質で返却されるのか。技術的パラメーターはどうなのか、もしかしたら途中で電源が落ち、ノルドストリームは運転を停止するかもしれない」と述べ、修理を終え戻ってきたとしてもガスを安定的に供給できるのかどうかはタービンの品質次第だと強調していました。

プーチン大統領によると「ノルドストリーム1」にはドイツのシーメンス・エナジーが運転するタービンが5基あったのですけれども、現在機能している2基のうち1基が返却されなければ供給量は1日当たり3000万立方メートルにとどまると述べ、さらに、別の1基も26日に保守点検に出される予定だとしていますから、供給不安はまだしばらく続くことになります。


2.ガスプロムの不可抗力


ロシアから欧州へのガス供給については、数日間に警告が出ていました。

ロシア国営ガスプロムが、7月14日付の書簡を欧州の顧客に送付し、「異常な」状況下にあるため、6月14日に遡って以降のガス供給を保証することができないと伝えていたことが明らかになりました。

関係者によると、ガスプロムが不可抗力としているのは、ドイツなどへの主要供給ルートであるガスパイプライン「ノルドストリーム1」を通じた供給に関するものとのことで、ドイツ最大のガス輸入業者であるウニパーはガスプロムからの書簡を受け取ったと表明。ガスプロムの要求は不当であり、正式に拒否したと発表しています。

また、ドイツの電力最大手RWEも書簡を受け取ったとしたものの、「詳細や法的見解についてはコメントできない」としています。

これについて、ABNアムロ銀行のシニアエネルギーエコノミスト、ハンス・バン・クリーフ氏は、ガスプロムからの書簡は「ノルドストリーム1経由のガス供給が10日間のメンテナンス終了後に再開されない可能性を示唆している」と指摘し、ロシアと欧州およびドイツ間の緊張が激化するかもしれないとコメントしています。

ガスプロムは不可抗力の開始日としている6月14日に、ノルドストリーム1のガス供給量を40%に削減。カナダで修理中のタービンの返却が遅れていることが理由としたのですけれども、21日に点検が終わってガス供給が再開したということは、一応修理が間に合ったのでしょう。

ただ、プーチン大統領が指摘した修理したタービンの品質やもう一基の点検修理があることを考えると、ロシアはまだまだ欧州を牽制する手札を持っていることになります。


3.シャワーは五分まで


こうしたことから欧州は、ガスの使用量を減らす算段を始めました。

欧州委員会は、EU加盟各国が8月から来年3月までのガス使用量を、2016-21年の同時期の平均使用量から15%削減する自主目標を提案。フォンデアライエン欧州委員長は「ロシアはわれわれを脅迫している。ロシアは兵器としてエネルギーを使っている」とし、ロシアがガス供給を部分的、もしくは全面的に遮断した場合に備え「欧州は準備を整える必要がある」と述べました。

中でも、ロシア産ガスに大きく依存しているドイツでは、政府が国民にシャワーの節約など省エネの要請を強めています。

ドイツ政府は最近、「8000万人で共にエネルギー転換へ」と銘打ち、国民総出で省エネを行うキャンペーンを開始。「シャワーの温度を下げ、最長5分に」などと、具体策を列記し協力を求めています。このあたり、冷蔵庫にいっぱい物を詰めるなと呼びかけた日本政府と大差ありません。

ドイツの住宅の暖房はガスが主流で、約5割を占めています。現在のガス貯蔵率は6割強と夏期の間はなんとかなりますけれども、、冬期は予断を許さない状況なのだそうです。

既にドイツはガス供給に懸念がある際に出す警報の第2段階を発令済みなのですけれども、最高の第3段階まで引き上げられれば、政府がガスの供給先に優先順位を付けることも可能になるとのことで、ハーベック経済・気候保護相は、こうした「悪夢のシナリオ」を回避するためにも、国民一人一人の協力が不可欠だと呼び掛けています。

既に、一部地域では、温水が出る時間を制限する住宅も出ているそうです。

これに便乗してか、7月14日、ギリシャのキキリアス観光相は独紙ビルトに、「秋冬にドイツの年金生活者を迎えることは大きな喜びだ」と、暖房の必要性が少ないギリシャでの越冬を呼び掛けています。


4.ロシアのガスが遮断されるとき


7月19日、IMF(国際通貨基金)は「ロシアの天然ガスからの遮断が欧州経済に与える影響」についての論評記事を公開しました。

それによると、ロシアによるガス供給の部分的な遮断はすでに欧州の成長に影響を与えており、完全に遮断された場合は今以上に深刻な影響が出る可能性があるとしています。

目下の現状は、ロシアのガス供給は2021年6月以降、60%減っているのですけれども、それでも欧州のインフラと世界の供給量は今のところ持ちこたえていて、ガスの総消費量は第1四半期に前年比で9%減り、世界のLNG市場を中心に、代替供給源が開拓されています。

ただ、ハンガリー、スロバキア共和国、チェコ共和国といった中・東欧の最も影響を受けた国のいくつかでは、ガス消費量の40%が不足するリスクがあり、国内総生産は最大6%縮小する可能性があるとしています。

これに対して、代替供給とエネルギー源の確保。インフラ制約の緩和とエネルギー節約の奨励。そして各国間でガスを共有するための連帯協定を拡大することによって、影響を緩和することができると訴えています。

現状では、仮にロシアの輸出が最大70%減った場合でも、これまでの価格高騰を受け需要が減っていることを踏まえると、代わりとなる供給源やエネルギーに頼ることで、短期的には対応可能だとし、これが一部の国がロシアからの輸入を自主的に停止した理由だとしています。

ただ、ロシア産エネルギーが完全に遮断された場合は話は変わって、輸入能力の不足や輸送上の制約により、ボトルネックが発生すると、欧州内でのガス再供給能力低下し、中・東欧の一部の国で年間消費の15%から40%が不足する事態になり得ると警告しています。

この場合、EU市場が国内および世界の他の地域と統合されたままであることが重要で、世界のLNG市場と繋がっていることで経済的影響を緩和することが出来るとしています。

日本は3月にLNGの一部を欧州に融通していますけれども、万が一ロシアが欧州へのガス供給を停止したら、また欧州にLNGを融通することになる可能性があります。

IMFは論評記事の中で、ロシア産エネルギーから完全に遮断された場合のドイツの見通しと政策の選択肢をシミュレートし、2027年まで分析しているのですけれども、その影響は来年にピークに達し、代替ガス供給が利用可能になるにつれ徐々に減っていくとしています。

また、卸売ガソリン価格の上昇はインフレを著しく増大させ、消費者の自発的なエネルギー節約が出来れば、経済的損失を3分の1減らすことができ、更に適切な供給計画を用いれば、最大5分の3まで経済的損失を減らすことができるとしています。

論評記事は、ロシアのガス遮断による経済的影響を一部緩和できるとした上で、各国政府は、世界のLNG市場と代替供給源からエネルギーを確保するための取り組みを強化しながらエネルギー節約を奨励するために断固とした行動をとり、スマートなガス配給プログラムを準備しなければならないと結論づけています。

日本は原発の他に、二酸化炭素排出が極少ない石炭火力発電の技術を持っています。

ロシアのウクライナ侵攻が長期化の兆しを見せるなか、欧州が代替エネルギーの確保に動くのであれば、日本は、その機会を活かして、欧州に日本の石炭火力発電技術を売り込むことも積極的に考えていただきたいと思いますね。



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