

1.室温28℃は損をする
暑い日が続いています。夏ですね。
6月7日、政府は全国に対し、節電協力を呼びかけることを決定しました。対象となる期間は今夏および今冬で、政府が節電要請をするのは、2015年以来実に7年ぶりのことです。
政府は節電要請の一環として、資源エネルギー庁が室温を28℃にするように呼び掛けています。
けれども、この28℃というのが根拠薄弱な設定値です。
6月29日のエントリー「ストックの電気とフローの電気」で述べましたけれども、この28℃は2005年のクールビズの導入時に環境省担当課長だった盛山正仁法務副大臣(2017年当時)が会議の席で「何となく28度という目安」でスタートしたと述べています
この室温28℃は厚生労働省の建築物衛生法に準じているのですけれども、慶應大学理工学部の伊香賀俊治教授によると「室温28℃というのは、労働環境としてここまでは許容できるだろうというものなのです。オフィスで許容できる快適さというわけじゃない。根拠がないわけではないけども、許容限界ってことです」というものなのだそうです。
伊香賀教授は「政府が省エネのために室温28℃といえば、28℃にしないといけない。国や自治体の省庁や学校は率先してやるしかないわけです……民間のオフィスはクレームだらけになるからですけど、やはり26度ぐらいで冷房されているというデータも発表されています。やっぱりそれは我慢できないですよ」と指摘しています。
伊香賀教授によると、2019年に姫路市役所で室温と作業効率の関係が調査されたのですけれども、「1ヶ月ちょっとの間、25℃冷房にしてみたそうです。姫路市役所はおよそ4000人が勤務されているのですが、光熱費は7万円増えました。そして残業時間は平均で2.9時間減ったそうです。これを人件費に換算すると4000万円」というとんでもない結果となりました。
そこで伊香賀教授らが実オフィスの被験者実験を行ったところ、もっとも作業効率が高かったのは冷房室温25.7℃だったのだそうです。
これでは何のための節電なのか分かりません。

2.エアコンの仕組み
そもそも、エアコンはどういう仕組みで温度調整をしているのか。
エアコンは「室内機」と「室外機」で構成されています。それぞれが「熱交換器」を持っていて、室内機側の熱交換器を「蒸発器」、室外機側の熱交換器を「凝縮器」と呼んでいます。
蒸発とは「液体が気体に変化すること」で、凝縮はその逆の「気体が液体に変化すること」です。つまり、エアコンはその内部で液体を気体にしたり液体に戻したりしている訳です。
蒸発器と凝縮器の間は、蒸発器から凝縮器にいくのと、凝縮器から蒸発器にいく2系統のパイプでつながれていて、その内部は「冷媒」で満たされています。室内機は部屋の中に風を吹き付けるためのファン、室外機は凝縮器冷却用のファンと圧縮機(コンプレッサ)を備えています。
室内の空気が持っている熱は、蒸発器を介して冷媒に伝えられます。蒸発器に入る前の冷媒は液体で、蒸発器の内部で蒸発して気体に変わるのですけれども、液体が気化するときには周囲の熱を奪う効果、いわゆる気化熱効果が起こり、これによって蒸発器周囲の熱を冷媒に伝えます。冷媒に熱を伝えて低温になった蒸発器周囲の空気は、ファンによって室内に吹き付けられて室内を冷やしていきます。
一方、気化して熱を含んだ冷媒は、パイプを通じて室外機側に送られ、コンプレッサで圧縮されて、高温高圧の液体になって凝縮器に進みます。凝縮器の放熱フィン部分は、ファンからの送風によって常に表面の熱を奪われていて、冷媒より低温になっているので、ここで熱交換が行われて冷媒の温度が下がります。
また冷媒は「膨張弁」と呼ばれる部分で、小さな穴から広い空間へ一気に放出されることで膨張させられるのですけれども、この膨張の過程で起こる「断熱冷却」によって低温低圧の液体に変わり、再び室内機側に送られて室内の熱を吸収します。
暖房運転の場合は、この行程の逆が行われています。

3.COPとAFP
エアコンの能力表示として、「冷房能力」「暖房能力」や「消費電力」がありますけれども、冷房能力や暖房能力として記載されている「kW」という数値は、エアコンが必要とする消費電力ではなく、冷房や暖房を行なう際の性能表記です。
空調機の性能を表す指標には、成績係数とも呼ばれるCOP表示と、2006年10月からエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)により加わったAPF表示があります。
COP(Coefficient Of Performance)とは、1kWの消費電力あたり、どれだけの冷房・暖房効果が得られるかを示す指標で、エネルギー消費効率を表します。COP値が大きいほど省エネ性能が優れています。
COP=定格能力[kW]/定格消費電力[kW]これに対しAPF(Annual Performance Factor)とは、1年間の消費電力あたり、どれだけの冷房・暖房効果が得られるかを示す指標で、通年のエネルギー消費効率を表します。これもCOPと同じく、APF値が大きいほど通年での省エネ性能が優れていることになります。
APF=(冷房期間+暖房期間 で発揮した能力[kWh])/(冷房期間+暖房期間 の消費電力量[kWh])こちらはダイキンのルームエアコンの仕様ですけれども、AFP値は6前後となっています。
ちなみにAFP値はJIS B 8616で定められてる下図の運転環境条件のもとで1年間エアコンを運転した場合として算出されています。

4.節電になる6つの方法
節電に繋がるエアコンの運転方法については、色々な方法が知られていますけれども、冷暖房共通の方法として次の6つを紹介します。
・エアコンの風量を自動運転にする
ファン風量を自動設定にすると、室温が設定値に近づけば微風運転に切り替え、コンプレッサーを止めるといったきめ細かな制御になるのですけれども、外部から取り入れる空気が室温と同一であれば、コンプレッサーの停止時間が長くなり、消費電力が低減されて省エネになります。
・フィルターの清掃をこまめに行う
室内機の給気部分に設置されているフィルタを清掃せず、ほこりが蓄積している状態で運転させていると、目詰まりによって風量が減少します。この状態で運転を続けるとエアコンはファンの回転数や冷暖房効率を維持しようと高出力運転となります。畢竟エアコンに多くの電流が流れ、消費電力が大きくなります。フィルタの汚れでエアコン能力が15%~20%も減少するといわれています。
・室外機の前面を開放する
室外機の前面にフェンスや壁があり、排気が跳ね返って室外機に戻るような構造では、自ら排出した熱い排気を再度吸い込んでしまい、エアコンの熱交換能力が非常に悪くなります。それを防止するためには、室外機の前面を十分に開放するのが原則です。
・換気扇やレンジフードを過剰に運転しない
換気扇やレンジフードは、外気を強く室内に誘引するため、空調している室温が外気に近くなります。換気を全開にすると当然、冷却効率が落ち、省エネにはなりません。
・扇風機やシーリングファンで室内空気をミキシングする
エアコンから放出される暖気は上部に、冷気は下部にたまりやすい性質があります。エアコンの自動風向調整を用いて空気をミキシングさせると、冷気と暖気が混合され、空調効率が向上します。暖房運転の場合は風向板を下向きに、冷房の場合は風向板を水平に向けることで、暖気と冷気の混合が効率良く行われます。シーリングファンは5~15W程度の消費電力であり、長時間運転しても電気代の大きな増加にはつながりません。なお、シーリングファンの回転方向を変える場合、ファン運転中に強制的にスイッチを切り替えると、モーター故障につながるため、停止状態で切り替えるのが推奨されるようです。
・旧式のエアコンを買い替える
エアコンは技術開発により省エネルギー化が進んでおり、エネルギーの消費効率は年々高くなっています。経済産業省・資源エネルギー庁の報告によると、2.8kWクラスのルームエアコンでは、2004年型の製品の期間消費電力量は945[kWh]なのに対し、2014年型は837[kWh]と約10%の省エネルギーとなっています。前述のダイキンエアコンの2.8kWクラスのものでは期間消費電力量は717[kWh]と2014年型から更に約15%の省エネとなっています。
5.つけっぱなしがお得は本当か
上述以外の節電として、よく「エアコンは、つけっぱなしがお得」と言われます。
通常、エアコンが最も多く電力を消費するのは、外気温と設定温度の差が大きい運転開始直後です。したがって「こまめに入り切り」したときの方が却って消費電力量を大きくしてしまうというのですね。
これについて、ダイキンはこちらで実証実験を行っています。
実験は下記の2つです。
①各部屋のエアコンを9:00~23:00まで、「つけっぱなし」と「30分ごとに入り切り」で運転し、それぞれの消費電力を計測・比較
②家庭での一日を想定し、各部屋のエアコンを「つけっぱなし」と外出時はOFFにする「こまめに入り切り」で運転。それぞれの消費電力を計測・比較
検証条件は、最高気温36.3℃/36.9℃、天気は晴時々曇、エアコン設定は冷房26℃、自動風量です。
結果は、日中は、35分までの外出であれば、エアコンを「つけっぱなし」の方が安く、夜は、18分までの外出であれば、エアコンを「つけっぱなし」の方が安いというもので、更に外出による入り切りの頻度と時間によっては、「つけっぱなし」の方が高くなる場合があるというものでした。
実験②での1日の消費電力量は「つけっぱなし」が5.7kWh、「こまめに入り切り」が4.4kWhで、電気代(27円/kWh)に換算すると「つけっぱなし」が153.9円、「こまめに入り切り」が118.8円と、「つけっぱなし」の方が1日で35.1円高くなるという結果になっています。
尚、ダイキンは冬の暖房についても同様に検証実験をしていて、こちらは「つけっぱなし」の方が安くなったようです。
ただ、一日のエアコンの使い方は各家庭によって様々ですし、ダイキンはエアコンの設定温度と外気温の差は冬の方が大きいことから、「こまめに入り切り」によって消費する電力がより大きくなった影響を指摘しており、ケースバイケースといえそうです。
下手に28℃にして作業効率が落ちたり、熱中症になってしまっては元も子もありません。エアコンは上手に使って、この夏も乗り切りたいですね。

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