ドイツのガス危機とEU対露制裁の綻び

今日はこの話題です。
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1.ロシア産ガスさらに半減


7月25日、ロシアの国営ガス大手ガスプロムは、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム1」を通じて送るガス供給量を27日から大幅に削減すると発表しました。

ロイターによると、ガスプロムは1日あたりの供給量を現行の半分にあたる3300万立方メートルにまで減らすようです。

ガスプロムは6月中旬、カナダで修繕中のタービンの返却が遅れていることを理由に、「ノルド・ストリーム1」を経由した欧州向け供給量を通常の4割に削減しており、今回の措置で通常の2割にまで減ることになります。

ガスプロムは、今月11日から「ノルド・ストリーム1」のタービンの定期点検を行う関係でガス輸送を一時停止していましたけれども、21日に作業を終えたとして供給を再開していたのですけれども、今度は別のタービンを修理するため新たに削減をすると説明しています。

これについては7月22日のエントリー「ノルドストリーム1再稼働」で、プーチン大統領が「別の1基も26日に保守点検に出される予定だ」と述べていましたから、予定通りといえば、予定通りです。




2.高騰続くドイツのガス価格


ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相は、「ノルド・ストリーム1」再開直後の21日に「ロシアのウクライナ侵攻により、ドイツはエネルギー危機に陥っている。技術的には、定期点検が完了すればNS1の供給量は通常時に戻せるはず。40%という供給量の少なさには政治的な意図があり、供給をあてにできないことを裏付けている」とロシアを批判したのですけれどの、返ってきのは更に半減。

ハーベック経済・気候保護相は「供給量を削減する技術的な理由はない。プーチンは卑劣なゲームをしている」と更に批判したものの虚しく響くばかりです。

このような天然ガス供給減を背景にドイツ経済・気候保護省は6月23日に「ガスに関する緊急計画」に基づき、レベル1~3のうちレベル2の「警報(alert)」を発令しています。

7月21日、ドイツ連邦統計局は、天然ガスに関する各種統計を取りまとめました。それによると、天然ガスの輸入価格指数は2015年を100とした場合、5月に332.2ポイント、価格は前年同月比で3.4倍に上昇。産業向け天然ガスの価格指数は6月に323.9ポイント、価格は前年同月比2.8倍となりました。

一方で、一般消費者向け天然ガスの価格指数は6月に159.7ポイント、価格は60.7%増にとどまり、輸入価格上昇分の一般消費者への価格転嫁はまだ十分に行われていない状況です。

ドイツ連邦統計局によると、ドイツでは産業部門と家庭部門のいずれも、エネルギー消費量に占める天然ガスの割合は依然として高く、天然ガスの総消費量は、産業部門では2020年時点でエネルギー全体の31.2%、家庭部門では2019年時点で41.2%を占めているそうです。

それで更に半減ですからね。ロシアのいいようにやられています。


3.長年の考えは誤りだった


7月22日、ドイツのショルツ首相は、ロシアからの供給が減少したため追加のガスの調達コストが増加し経営難に陥ったドイツ最大手のガス・電力会社ウニパーを救済すると発表しました。

これにより、ウニパー社は150億ユーロ(152億ドル)の保証と出資を確保しました。

ドイツ政府はウニパー社の株式の30%をおよそ2億7000万ユーロ、日本円でおよそ380億円で取得して経営を支えるということで、親会社であるフィンランドのフォータムの出資比率は80%前後から56%に低下します。

ウニパー、フォータム、ドイツ政府はウニパーのガスの卸売契約構造を改革するため長期的に安定した解決策を模索するとして、2023年末までの合意を目指すそうです。

更にウニパー社は今後数カ月のうちにガス料金の高騰に伴うコスト増の一部を消費者に転嫁できるようになるのですけれども、この価格転嫁で、平均的な家庭の負担は年間およそ3万円から4万円増える見込みで、ショルツ首相は家計の負担を減らす対策を講じるとして理解を求めました。

更にショルツ首相は「どんな時もロシアから合意した量のガスが送られてくるという、長年の考えは誤りだった」と述べ、供給量の減少の長期化に備え、国民にガスの節約などを呼びかけていますけれども、心配なのは冬です。

ドイツはガスの貯蔵水準を10月に80%、11月には90%まで満たす目標を定めているのですけれども、7月4日現在で約61%です。けれども供給が2割にまで減っている今の状態が続けば、それも危うくなります。


4.対ロシア制裁の綻び


これまでEUはロシアに対して様々な制裁を行っています。

7月20日、EUはブリュッセルで開いた外交官会議で、対ロシア制裁第7弾で合意しています。

リトアニアのプランケヴィシウス欧州連合常駐代表は、「EU加盟国の常駐代表委員会で、われわれはたった今、ロシアに対する追加制裁を承認した。これには金の輸入禁止、新たな輸出規制、ズベルバンク(露銀)の資産凍結、政治家、軍指導者、オリガルヒ(新興財閥)、プロパガンダを担う人物などを含む50以上の個人及び団体への制裁が含まれている」とその内容を述べています。

これに対し、ロシア外務省のザハロワ報道官は世界の安全保障と経済に「破滅的な影響」を与えるとし、「EUの制裁が世界経済と安全保障の様々な分野に与える壊滅的な影響が一段と明白になっている」と批判しました。

ザハロワ報道官は、EUが食糧安全保障を確保するために制裁の一部緩和を提案したことを取り上げ、ロシアはこれが穀物輸出再開に向けた条件を作り出すことを望んでいるとした上で「残念ながらEUの表明した意図と実際の行動には大きな隔たりがある」とコメントしています。

この第7弾制裁は合意の翌21日に発効したのですけれども、この日、EUは「世界の食料およびエネルギーの安全保障に対する潜在的な悪影響を回避するとの観点から、EUは第3国との農産物取引および原油輸送において、特定の国有企業との取引に対する禁止措置の適用除外を拡大することを決定した」とする声明を発表し、決めたばかり制裁措置の内容を修正しています。

これにより、ロシアの国営石油最大手ロスネフチとガスプロムは第3国への石油輸出が可能になると見られています。見方によれば、ロシア産原油も第3国を経由しての迂回輸入できるルートが出来るともいえ、段々と制裁にも綻びが出て来ているとも言えます。

この種の綻びは他にもあります。

欧州委員会は対ロシア制裁として、ロシア産の鉄鋼や金属製品などのEU域内の通過を禁じる方針を打ち出し、これを受けて、カリーニングラードに隣接するリトアニアは先月、制裁対象物資を積んだ鉄道の自国内の通過を禁止していました。

これに対し、ロシアはリトアニアへの報復をちらつかせて、撤回を求めていたのですけれども、7月13日、欧州委員会は対ロシア制裁の新たな指針を発表し、武器以外の制裁対象物資を載せた列車の通過を認める方針を表明しています。道路での輸送は引き続き禁じられるものの、鉄道はスルーにした訳です。

このように、EUは最初は派手に制裁をぶち上げるのですけれども、その後でちょこちょこ制裁内容を修正しているのですね。出来レースとはいいませんけれども、大枠ではロシアと決定的に対立しないように都度調整しているように見えなくもありません。

こうしてみると、EUの対露制裁も天然ガスをロシアに握られている中、どこまで突っぱねられるのは、次の冬にどうなっているかが一つのポイントかもしれませんね。


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