台湾を訪れる各国政府関係者とペロシによって窮地に立たされるバイデン

今日はこの話題です。
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1.訪台した日本の安全保障を考える議員の会


7月27日、超党派議員によって構成される勉強会「日本の安全保障を考える議員の会」の一行が台湾入りしました。

訪問団の団長を務めるのは、自民党の石破茂衆議院議員と浜田靖一衆議院議員、長島昭久衆議院議員と参議院総務副会長を務める維新の会の清水貴之参議院議員の計4人。当初は国民民主党の前原誠司衆院議員らも訪台予定だったのですけれども、武漢ウイルスの影響で訪台できませんでした。

一行は4日間の台湾滞在中、蔡英文総統、頼清徳副総統を表敬訪問するほか、外交部の呉釗燮部長、台湾日本関係協会の蘇嘉全会長と会談。また、国家安全会議、行政院、立法院、国防部、シンクタンクなどを訪問し、台湾と日本の安全保障など重要な議題について意見交換を行い、李登輝元総統が眠る台湾北部・新北市汐止区の五指山にある国軍示範公墓を訪れて墓参する予定だそうです。

石破氏は台北市内の空港で「ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、この地域の安全保障環境とそれぞれが果たす役割について議論をし知見を深めたい」と意欲を見せました。

その背景には、親台湾派として知られた安倍晋三元総理が死去したことで、日台間をつなぐ大きなパイプが失われたとの声があり、日本の超党派の議員団が訪台することでそうした懸念を払拭し、台湾海峡を巡る安全保障は日本の政界の共通認識となっていることを改めて示す目的があるとみられています。

一方、台湾外交部は石破氏らの訪台を心から歓迎する立場を表明。その上で「権威主義国家の勢力の拡張が進む中、理念の近い国々は安危を共にすること(安危與共)の重要性をより強く認識するようになった」とし、一行の台湾訪問が、台湾と、日本を含む民主陣営との連携を強め、世界の民主陣営の強靭性を強化し、ひいてはインド太平洋地域の平和と安定、繁栄の維持につながるよう期待しているとしています。


2.安倍氏の遺志引き継ぐ


日台間のパイプをつなぎ直すことも重要ですけれども、大事なのはその中身、つまり安倍元総理の遺志を継ぐ人が現れるのかどうかです。

7月24日、自民党の高市早苗政調会長は、東京都内で講演し、日台関係に関し「安倍晋三元首相なくして、現在の日台関係なしと思う。安倍氏のご遺志を多くの同志議員とともにしっかりと引き継いで、台湾と一層強固な関係を構築したい……日台は断交後も親密な関係を保ち、むしろ絆は一層強固になりつつある」と述べました。

その上で、高市氏は「自民党の政調会としても友情に加えて、政策面でも連携を強めていかなければ互いに守り合えないと強く意識している……台湾を第二の香港にしてはいけない」と強調しました。

香港は最近まで「一国二制度」と称して高度の自治を保障するとしていましたけれども、2020年に反政府的言論を取り締まる香港国家安全維持法が施行され「一国二制度」が事実上崩壊しましたから、台湾に同じ危惧を覚えるのは当然です。

高市政調会長は、安倍元総理の遺志を継ぐと述べていますけれども、高市氏が総理の目指すのであれば、高市氏に賛同し、支える議員を集め、高市派を立ち上げるくらいの求心力がなければ、中々厳しいのも現実です。


3.断固として台湾側に立つべき時だ


台湾の安全保障に最も大きな影響力を持つのはいわずとしれたアメリカです。

7月18日、アメリカのトランプ前政権下の2019~20年に国防長官を務めたマーク・エスパー氏が、アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の代表団を率いて台湾入りし、翌19日に蔡英文総統との会談を行っています。

エスパー氏は、アメリカが台湾防衛義務を意図的に明確にしない「曖昧戦略」について、「民主主義に対する最大の脅威はロシアではなくアジアにある。中国は法の支配に基づく世界秩序を損ない、自由を愛する人々を脅かし続けている……アメリカ内で、新たな戦略を議論すべきだ」と「戦略的な曖昧性から脱却すべきだ」との見解を表明し、積極関与を続けるアメリカの姿勢を明示しました。

また、20日には、欧州議会のニコラ・ベーア副議長が訪台し、蔡総統と会談を行っています。

ベーア副議長は台湾入り後、報道陣に対し「断固として台湾側に立つべき時だ」とし「台湾の繁栄は欧州の繁栄でもある。われわれは台湾に対する中国の脅威を見て見ぬふりはしない。欧州は香港では遅きに失したが、台湾ではそうならない……民主主義の台湾に中国が侵略する余地はない。現在、欧州で戦争が起きているが、アジアでの戦争を目にしたくない」と強調しています。

また、ベーア副議長は蔡総統との会談でも「EUからみても台湾は非常に重要。我々は中国との良好な関係を継続したいが、中国が現状を一方的に変更しかねない方向に進むことに深刻な懸念を持っている」と述べています。


4.ペロシの訪台計画


このように、台湾には、各国から議員や政府関係者が台湾支持の姿勢を示すため訪れているのですけれども、現在、アメリカ下院議長のナンシー・ペロシ氏の訪台に注目が集まっています。

7月18日、イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」は、匿名の消息筋の話を引用し、「ペロシ議長は来月、代表団を率いて台湾を訪問し、台湾に対する支持を表明する計画」だと報じました。

この報道が出るや否や中国は大騒ぎになりました。現役のアメリカ下院議長が訪台するとなると、それはアメリカ議会の意思であり、「一つの中国」を認めないと解釈することも出来るからです。

23日、フィナンシャル・タイムズは、中国がアメリカに非公式的に厳重な警告を送り、訪問を阻止するために戦闘機を動員し、アメリカ軍用機を妨害する軍事行動に乗りだす可能性があると報じました。

そして25日には中国外交部の趙立堅報道官が定例会見で「中国は、ペロシ米下院議長の台湾訪問を深刻に懸念し、断固反対する。米国には中国側の厳正な立場を何度も表明している……中国は厳しい態度で控えている。米側が独断で強行すれば、国家主権と領土保全を厳守するため、中国は必ず強力な措置を講じる。米側はすべての結果の責任を負うことになる」と警告しました。

もっとも、アメリカ下院議長が台湾を訪問するのは今回が初めてではありません。

1997年4月、ニュート・ギングリッチ下院議長が台湾を訪問しています。当時、ギングリッチ下院議長は、韓国・香港・中国・日本を経て台湾を訪問し、台湾に行く前に中国で当時の江沢民国家主席に会っています。

ギングリッチ下院議長は、中国に対して「アメリカが台湾を防衛することを理解してほしい」と述べ、実際に台湾訪問を行ったのですけれども、中国はこれを強く批判できませんでした。というのも、当時の中国は世界貿易機関(WTO)加盟をめぐりアメリカの同意が必要だったという事情があったからです。

けれども、それも25年も前の話。今とは全然状況が異なります。

20日、バイデン大統領は、ペロシ議長の台湾訪問について、「米軍はいい考えだと思っていない」と及び腰な発言したのですけれども、ペロシ議長は翌21日、記者会見で、自身の訪台について警備上の問題を理由にコメントを避けつつ「台湾への支持を示すのが重要だ……バイデン氏は我々が搭乗する飛行機が中国に撃墜されるのをおそれたのだろう」と牽制しました。

これについて、笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄氏は、「今の厳しい対中世論を考えると、ペロシ下院議長が台湾訪問を断念すれば、国内から大きく批判されるはずです。かつて天安門事件後、民主化運動に関わった在米中国人留学生を助けるためにビザ延長の法案成立に奔走したペロシ議長はなんとしても訪台したいはずです」とコメントしています。

月内に米中首脳協議が予定されているようですけれども、仮に開催された場合は、その場で習近平国家主席はペロシ議長を訪台させないよう脅しをかけてくるでしょう。それをバイデン大統領が突っぱねられるのか。

25年前、訪台した当のギングリッジ元下院議長は「中国共産党の脅しでアメリカの下院議長さえ守れなければ、中国はどうしてアメリカが台湾を守ると信じるのか」と至極当然の指摘をツイートしています。


5.ペロシの台湾訪問でバイデン政権が窮地に立たされる


また、ワシントンポストの外交・安全保障コラムニストのジョシュ・ロギン氏は、23日付のコラム「Pelosi’s Taiwan trip puts the Biden administration in a bind」で、台湾は板挟みになっていると述べています。

コラムの要旨は次の通りです。
・ナンシー・ペロシ下院議長が、史上最高位の国会議員として台湾を訪問する計画を、長い間温めてきた。今、彼女がその計画を確定させると、中国政府は大規模な報復をすると脅しており、バイデン政権は彼女に延期を望んでいる。台湾はその板挟みになっている。台湾は中間に位置し、誰もが望まない危機の可能性に備えている。

・中国はハッタリをかますのか、それともペロシの訪問は本当に対立の火種になりうるのか?この時期にペロシが訪問することのメリットは、リスクに見合うものなのか。そして何よりも、民主主義において、外交政策の問題で意見が対立した場合、どの部門が最終的な決定権を持つのだろうか?

・バイデン大統領は、ペロシが8月に台湾を訪問する予定だという報道をさりげなく確認したとき、まだ発表されていない訪問をめぐるアメリカ政府内部の対立を不注意にも明らかにしてしまった。

・バイデン氏は、「軍は今、それが良い考えではないと考えている」と述べ、「それがどのような状況なのか」わからないと付け加えた。彼の発言は、バイデンの国家安全保障担当高官とペロシの事務所との間の訪問の可能性に関する既に不快な議論を複雑にしていると、複数の政権関係者が私に語った。

・もちろん、ペロシは民主主義国家のリーダーとして台湾を訪問する権利があり、北京には干渉する権利はない。彼女の訪問は、中国に脅かされている台湾の民主主義を支持する強い意思表示となるだろう。しかし、バイデン陣営は関連するリスクを無視するわけにはいかない。中国共産党は11月に習近平国家主席に3期目を与える予定であり、バイデン氏の関係者はそれまでの期間が特に危ういと考えている。

・延期にはリスクもある。もしペロシが今、訪台を延期すれば、北京は強硬策が功を奏したと判断する可能性がある。中国は、議会代表団が台湾を訪問しようとするたびに拒否権を行使していると考えることは許されない。

・ペロシは木曜日の記者会見で「台湾への支持を示すことは重要だと思う」と語ったが、安全上の理由から訪台を計画していることを確認することは避けた。「私たちの誰も、台湾の独立に賛成だとは言っていない。それは台湾が決めることだ」

・一部の軍幹部が今回の訪台を懸念しているのは事実だが、それだけではない。過去数週間、国家安全保障顧問のジェイク・サリバン、統合参謀本部議長のマーク・A・ミルリー、インド太平洋軍司令官のジョン・C・アキリーノ、NSCアジア担当のカート・キャンベルなどの高官が、ペロシやそのスタッフに、リスクに関する情報評価と、彼女が行く場合に必要となる軍事計画についてブリーフィングを行ってきた。

・中国当局は、議会代表団が台湾を訪問すると、いつも不満を漏らす。しかし、政府関係者は、今、特に懸念していることがあると私に語った。中国が不安定化する可能性のある反応を計画しているとのことです。しかし、少なくともある中国国営メディアの論者は、中国空軍がペロシを迎え撃つために飛行機を送り、対決の火ぶたを切るかもしれないと言っている。

・米軍は、台湾への議会代表団の通常の手続きとして、軍用機で飛行するペロシ一行を保護するためのオプションを考案している。検討されているのは、空母の移動、近接航空支援のための戦闘機の派遣などである。それが逆に、中国側には防御的な措置ではなく、攻撃的な措置と誤解される可能性もある。

・アジアにおけるアメリカの主要な同盟国は、挑発的に見られると思われる訪問について懸念を表明していると、当局者は述べた。その結果、台湾をめぐって一部の国との協力関係を強化しようとする努力が損なわれる可能性があると、政権当局者は述べた。

・アメリカ政府は、バイデンがペロシの訪米を支持していると中国政府が(誤って)信じていることも懸念しており、二国間関係の緊張を高めようとする政権の現在の動きと矛盾している。ホワイトハウスがよく知っているように、議長は旅行に関して独自の決定を下すことができ、また下すだろう。しかし、北京は(間違って)これを意図的なエスカレーションと見なすかもしれない。

・アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパー上級研究員は、「中国が引き下がるかどうかは誰にもわからないし、何もないのかもしれない」と述べた。「しかし、北京がペロシの今回の訪問を、一部のアメリカ人が評価しているよりもずっと厳しい過去の政策との決別として、異なる見方をしていることは明らかだ。

・ホワイトハウスは、ペロシが延期することを望んでいると公言できない。バイデンは台湾に甘いと攻撃されるだろうからだ。バイデン氏は、武器売却、軍事訓練、外交的関与、台湾海峡をパトロールするアメリカ海軍の一貫した任務など、台湾に対して全体的に強固な支持を示している(今週も)。

・台湾はまた、中国の不快感の矢面に立たされることになりかねないというリスクにも直面している。しかし、ペロシは立法府の独立を主張し、中国のいじめに屈したと非難されるのを避けるために、計画を遅らせることに抵抗するかもしれない。

・最良のシナリオは、ペロシとバイデンが妥協点を見いだし、アメリカが一つの声で発言できるようにすることだろう。例えば、ペロシが延期する場合、他の議員を代わりに派遣し、数ヶ月後に訪問することを約束することで、面目を保ち、悪しき前例を作らないようにすることができるだろう。

・しかし、もしペロシが来月台湾を訪問することになれば、ワシントン、北京、台北の政府はそれを受け入れるしかないだろう。民主主義国家では、国民とその代表者は、近隣の独裁国家から罰せられることなく、好きなときに他の民主主義国家を訪問することができるのである。それが自由な社会の強みであり、弱みでもない。
コラムを読む限り、台湾は板挟みにあっているかもしれませんけれども、題名の通り、バイデン政権も板挟みあるいは自縄自縛になっているのではないかと思えてきます。

対ロシアがあれだけ強気に出て、西側諸国を巻き込んでウクライナに支援しまくっている癖に、中国に対して弱腰となると、主張の一貫性がないばかりか、ウクライナ支援にしても、都合が悪くなったら掌を返すのではないかと思われかねません。

もしバイデン政権が少しでも引き下がろうものなら、中国は嵩に掛かって舐めてくるでしょう。バイデン政権はこちらでも正念場を迎えているのかもしれませんね。


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この記事へのコメント

  • 名乗るほどの何者

    本当にバイデン大統領は無能…ロシアに対しても侵攻間近の時に米軍派遣を否定した。もしも本心は別としてロシアが侵攻したら米軍も関与すると発言すればプーチンが侵攻を躊躇したかも知れない。今回もあんな張り子の虎の中国軍が実戦経験豊富な米軍に挑める筈がない。日本を含めた同盟国も嫌々ながらついている。中国は一人ポッチ(ロシアはウクライナで手一杯、北は内政で手一杯、他の友好国はカネも武器もない)だ。反習近平をこれ以上増長させる訳にはいかない。また弱虫バイデンが逆に世界を混沌に巻き込むようで心配です。
    2022年07月29日 13:50
  • 深森

    最近、台湾関係が「波高し」状態なのは、押し迫った選挙スケジュールが関係している様子です。
    ・台湾統一地方選 2022.11.24投票
     …6直轄市を含む22の自治体首長や議員らを選出、位置づけとしては2024年の次期総統選の前哨戦
    ・台湾総選挙 2024年1月予定
     …蔡英文総統の任期満了に伴い

    おおむね予想されていた事かと思われますが、中国政府が、台湾の選挙に合わせて何かしら手を突っ込む気満々であると観測されています。ここ当分の間は、確実にハイリスクな状況かと。要注意でありますね。
    2022年07月29日 20:08

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