

1.何が問題かわからない
7月29日夜、自民党の福田達夫総務会長は旧統一教会と自民党所属議員との関係を巡る自身の記者会見発言について、釈明文書を出しました。
釈明文書の内容は次の通りです。
本日(7月29日)の総務会長記者会見における発言につき、ご説明申し上げます。福田総務会長はこの日の午後の記者会見で旧統一教会と党の関係について聞かれ次のように答えていました。
これまでも被害者を生み出すような、社会的に問題が指摘されている団体との関係が問題であることは、言うまでもありません。それゆえに、自分としては、そのような団体との付き合いはしておりません。
党としての組織的関係は無いということについては、幹事長が申し上げている通りですし、個々の議員についても、そのような団体との関係について厳正かつ慎重であるべきと考えています。
わが党が、組織的に、党外の団体から強い影響を受け、それで政治が動くのであれば問題ですが、私の理解では、そのようなことは一切ありません。ただ、党としての問題ではなく、個人として、なにか抜き差しならない関係になっていて、その結果、その方の政治活動に非常に大きい影響を与えているのであれば、それは問題と思います。
一部から御質問をいただいているような、そのような団体との付き合いについて「何が問題かわからない」という趣旨の発言ではございません。衆議院議員福田 達夫
「正直、僕自身が個人的に全く関係がないので、なんでこんな騒いでいるのか正直言ってよくわからないというのはあります。なにか本当に明確にですね。我が党が組織的に、ある団体から強い影響を受けてそれで政治を動かしてるのであれば、問題かもしれませんけど。申し訳ない、僕の今の理解の範疇だとそういうことが一切ないので、それを取り立てて問題だということが本当に何か物事を良くするのか、非常に僕は極めて疑問に思っています……ただ単に信じてる方の母体が統一教会に関するところだったというぐらいのことで問題であるとか、自民党がそこの団体のですね影響を受けて政治を動かすというような誤解を招くようなことだけはしてほしくはないかと思いますし、お相手の方も大分御迷惑なのかなと正直思っております。正直言います。何が問題なにか僕はよくわかんないです」要するに旧統一教会が自民党に圧力なり陳情なりして、それで政治が動いたなら問題だが、そんなことはないから問題とは思わないという趣旨ですね。これは釈明文で言っていることと変わりません。
強いていえば、議員個人が、社会的に問題が指摘されている団体と付き合う場合は問題だと、党と個人を切り離して付け加えた程度だと思います。大枠では変わってない。
2.長年かなわなかった名称変更
旧統一教会は2015年に名称を「世界平和統一家庭連合」へと変え、政府から認証を得ているのですけれども、共産党の宮本徹衆院議員がこの名称変更認証の決裁文書について開示を求め、7月26日、文化庁からその資料が提出されています。
開示資料によると、2015年6月2日に旧統一教会から当時の下村文科相宛てに「認証申請書」が提出され、文化庁は同年8月26日に決裁しています。
ところが、肝心の変更理由の部分は申請書も決裁書も黒塗りで、その理由が全く分かりません。
これについて宮本議員は、「中には宗教法人の正当な利益を害する場合もあり、理由を公開できないこともあるでしょう。しかし、宗教法人すべて非開示はおかしい。宗教法人は税制上の特例を受けています。名称変更の理由を示し、国民への説明責任を果たすのは当然だと思います。ましてや統一教会の場合、長年かなわなかった名称変更が突然、認証されたわけですから、理由はなおさら開示すべきです」とコメントしています。
宮本議員は「長年かなわなかった名称変更」と述べていますけれども、旧統一教会が名称変更を最初に申し出たのは1997年のことでした。
宗教法人法では、名称を変更するには会社の定款に当たる「規則」の変更を所轄庁に届け出るように定めています。旧統一教会の場合、当時の文部省の所轄となり、外局である文化庁宗務課が手続きを担当していました。
当時、宗務課長を務めていたのは、元文科事務次官であった、"あの"前川喜平氏で、前川氏は「『教会の実態が変わっていないのだから、申請は認められない』と言って、受理をせずに水際で止めた」と語っていますけれども、文化庁は、霊感商法などへの批判をかわすための申請は認められないという立場からその後も同様の対応をとってきたとしています。
ところが2015年に一転して申請を受理したということは、それ相応の理由がある筈です。毎日新聞は、当時の下村博文・文部科学相にも名称変更を認める前に異例の「報告」をしていたと伝えていますけれども、名称変更理由を黒塗りで一切開示しないというのは、何らかの圧力というか裏があるのではと疑われても仕方ありません。
福田総務会長は、旧統一教会が自民党に圧力を掛けて政治が動いたことは一切ないと言い切っていますけれども、そうであれば、黒塗りは取っ払って開示すべきではないかと思います。
3.付き合いはあるがズブズブではない
ここにきて、旧統一教会と付き合ってきた自民党議員が次々と明らかになっています。
7月26日、岸信夫防衛相は会見で、旧統一教会との関係について、「何人かは存じ上げている。お付き合いもあったし、選挙の際もお手伝いをいただいた」と明らかにし、選挙時の手伝いの内容を問われると、「具体的には存じ上げないが、電話作戦などボランティアでお手伝いをいただいたケースはあると思う……選挙だから支援者を多く集めることは必要なことだと思っている」と自ら明かしました。
岸防衛相は、その後29日の会見では「選挙区にはさまざまな宗教的なバックグラウンドを持っている人もいる。個人のボランティアとしてお手伝いがあったが、正しかったのかどうかも含め、検討していかなければならない」と述べる一方、旧統一教会や関係する団体から献金を受けたり、団体の行事に参加したりしたことはないと説明し「一つ一つの教義を知っているわけではないが、社会問題化しており、被害を受けた人がいるのは大変問題だと思っている」と述べました。
また、28日には磯崎官房副長官の議員事務所が、旧統一教会の関連団体が昨年8月、香川県内で主催したサイクリングイベント「Peace Road 2021 in Kagawa」の閉会式に、来賓として出席していたと発表しました。
その理由として、地元の国会議員らが実行委員長などを務める「Peace Road 2021 in Kagawa 実行委員会」が主催し、香川県や高松市などが後援していたことなどを挙げています。
磯崎官房副長官はこのイベントの主催は「実行委員会」であり、旧統一教会との関係性については「お答えする立場にないことをご理解頂きたい」と述べ、把握している限り旧統一教会が「主催」する行事に出席したり、祝電を送ったりしたことはないと説明しています。
岸防衛相も磯崎福官房長官も付き合いは認めたもののズブズブではないというスタンスのようです。
4.自民党として組織的関係はない
これらについて、自民党の茂木幹事長は26日の記者会見で「自民党として組織的関係がないことは確認している」と強調した上で、党所属議員に対して「社会的に問題が指摘される団体との関係は、厳正かつ慎重であるべきだと注意を促したい」と述べ、党は関係なく、議員個人の問題として扱うようです。
その是非はともかくとして、自民党がそういう方針だとする限り、旧統一教会との付き合いは議員個々人の判断に委ねられることになります。
先述の岸防衛相も磯崎官房副長官の言動を見る限り、旧統一教会と深い付き合いになるのはよろしくないと考えていることは間違いないと思われますけれども、あまり問題視しない議員も中にはいます。
選挙応援を受けていた自民党の工藤彰三衆院議員は「反社会的勢力と認定されれば関係を絶つが、そうではないので、お付き合いしていくつもり」とコメントしています。
これは、旧統一教会は反社的と自ら起こした訴訟でそう論じた世耕参議院議員や「旧統一教会はさまざまな事件が過去にあった。そういう反社会的な団体から支援を受ける、行事に参加することは慎重でなければならない。団体に利用されることにもなりかねない」と会見で述べた公明党の北側一雄中央幹事会長の見方とは大きく異なっています。
5.ホワイトでない者への厳しい目線
当然ながら、こうした旧統一教会に対する政治家の態度には批判が集まっています。
冒頭で取り上げた福田総務会長の「何が問題なのか分からない」発言についても、2ch創設者である、ひろゆき氏は「旧統一教会」で被害を受けた人々が「被害総額だけで1200億円あるって言われていて」とし具体的に自己破産した元信者の例を明かした上で「そういう被害が発生しているっていうのを見て、何も問題ないよね、この問題って思えるって時点で人としてどうかと思うんです、政治家より前に」と指摘しています。
また、旧統一教会の被害救済などに取り組んでいる「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は12日の記者会見で連絡会の代表世話人を務める山口広弁護士は「今も司法に違法行為を指摘されている」と強調。元信者の女性が献金の返還を求めた訴訟では20年2月、東京地裁が「献金の要求は、不安や恐怖をあおる不当な方法だった」として勧誘した同連合側に約470万円の返還を命じる判決を出すなど、近年も複数の民事訴訟で同連合による献金の違法性を認める判決が相次いでいると指摘しています。
弁護士連絡会は政治家に対して旧統一教会に対して支持を表明するような行為を慎むよう求める声明を公表しています。
このように、旧統一教会に対する世間の目はというと、厳しいといってよいのではないかと思いますし、であるからこそ、何が問題なのか分からないくせに「謝罪文」を出すのだと思います。
世間は、たとえ個人であっても、反社の疑いのある団体と付き合いがあるだけでノーを突き付けるようになっています。
筆者は7月14日のエントリー「参院選が呼んだ革命とホワイトが天下を平定する未来」で、評論家の岡田斗司夫氏が唱えている「ホワイト革命」を取り上げ、政治の世界にも「ホワイト化」の波がやってくると述べていますけれども、今回の旧統一教会と政治家との関係に対する世間の反応をみると、やはり世間は政治家に「ホワイト」を求めているように思えます。
「謝罪文」を出した福田総務会長は6月9日、黒田東彦・日銀総裁が物価高について「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言したことに関し「一般の生活者の方々の目線を忘れないで発信した方がいい」と苦言を呈していますけれども、旧統一教会についても自身こそが「一般の生活者の方々の目線を忘れないで発信」すべきではないかと思いますね。
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