

1.グリーントランスフォーメーション
7月27日、岸田総理は2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」など、脱炭素化を進めるため、萩生田経済産業に新たに「グリーントランスフォーメーション実行推進担当大臣(GX)」を兼務させる人事を発令しました。
官民連携のもとで、脱炭素に向けた経済や社会、それに産業構造の変革を実現するための対策を推進する役割を担うということですす。
マスコミはこの「グリーントランスフォーメーション実行推進担当大臣について「脱炭素への担当相新設」という風に報じていますけれども、この実行推進担当大臣の新設について、岸田総理は、7月22日に出席した長野県軽井沢町での経団連の夏季フォーラムで表明しています。
ただ、この時、経団連は、休止中の原子力発電所の着実な再稼働や新型炉を含めた新増設、脱炭素社会実現への取り組み推進、防衛力の抜本的強化を求める提言をまとめ、十倉雅和会長から岸田総理に手渡されていることを考えると「脱炭素」の中には原発が入っている可能性が高く、よく世間が思い描く、脱炭素だから再生エネルギーだという話ではないと思われます。
実際、27日に行われたグリーントランスフォーメーション(GX)の実行会議に出席した岸田総理は「1973年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される。まず危機の克服が優先だ。これなくしてGXはあり得ない……次回会議では、原発再稼働とその先の展開策など政治決断が求められる項目を明確に示してほしい」と原発を口にしています。
それにしても、1973年以来のエネルギー危機だとか、政治決断を求める項目は何かを示せとか、どこか切迫したものを感じてしまいます。
2.防衛費上限撤廃
7月29日、政府は看板政策や防衛費など幅広く事項要求を認める2023年度予算の概算要求基準を閣議了解しました。
23年度予算の概算要求基準では、「年金・医療等に係る経費」「地方交付税交付金等」「義務的経費」「東日本大震災からの復興対策に係る経費」について積算による要求を認め、それ以外の経費は1割減を求める内容です。
このうち「義務的経費」として、(イ) 補充費途として指定されている経費、(ロ) 人件費、(ハ) 法令等により支出義務が定められた経費等の補充費途に準ずる経費、(ニ) 防衛関係費及び国家機関費に係る国庫債務負担行為等予算額、(ホ) 予備費(新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費を含む。) 定義されているのですけれども、この中に防衛費が入っていることから、メディアは、防衛予算に上限を設けないと報じています。
政府は、今後5年間の防衛費の総額と主要装備の整備数量を盛り込む中期防衛力整備計画など外交・安全保障関連の政府3文書を年末までに改定する予定で、今回、防衛費を他省庁の予算要求と区別したのは、3文書の内容を踏まえた形で決めるためとしています。
実際、防衛相は8月の概算要求の段階では、中期防経費について、予算要求額を明示しない「事項要求」をするとしています。
前回の中期防経費を改定した2018年は防衛費も他省庁の予算と同様の概算要求基準を適用しており、財務省は今回の例外扱いは初めてとコメントしていますけれども、自民党が政府に防衛費を、国内総生産(GDP)比1%程度から5年以内に2%以上に引き上げるよう提言したことが背景にあるとも見られています。
原発再稼働・新増設や防衛費上限撤廃など最近の岸田総理の動きから、識者からは「岸田総理は覚醒したのか」という声もぽつぽつ上がってきているようです。
3.覚醒させられた岸田総理
岸田総理が本当に"覚醒"したのであれば、それはそれで喜ばしいことなのですけれども、筆者に気になる点がないわけではありません。それは覚醒せざるを得なかった、あるいは覚醒させられたことも考えられるからです。
今月28日までの日程で日本と韓国を訪れているアメリカのヌーランド国務次官は25日、森外務事務次官を表敬訪問し、会談を行いました。
会談内容の概要は次の通りです。
・冒頭、ヌーランド次官から、今般の安倍元総理大臣の逝去に対する深い弔意の表明がありました。これだけだと具体的に何を話したのかは分からないのですけれども、ヌーランド国務次官は、翌26日、都内でNHKのインタビューに応じ、その内容の一端を明かしています。
・両者は安倍元総理大臣の遺志を引き継ぎ、日米同盟の更なる強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致しました。
・両者は、7月中に開催予定の日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)や日米同盟の抑止力・対処力の強化を始めとする日米関係やウクライナ情勢を始めとする地域情勢について幅広く意見交換を行いました。
・両者は、日本が議長国を務める来年のG7広島サミットに向けた議論を含め、引き続き日米で緊密に連携していくことを確認しました。
インタビューでヌーランド国務次官は、軍事侵攻を続けるロシアについて「制裁の効果は必ずしもすぐには表れないものだがロシアは徹底的な経済圧力を受けていると確信している」と述べたうえで、今回の来日でロシアへの制裁やウクライナへの人道支援などについて日本政府と協議したことを明らかにしました。
そして「最も重要なことは、この圧力を維持し緩めないことだ」とG7が引き続き一致した対応を取ることが重要だと強調し、「サハリン2」に関しても「エネルギーをプーチンが日本に対抗する武器にさせてはならない。時間をかけて依存を終わらせるため日本とエネルギー需要について協議している」とロシアからの輸入を減らすため日本と連携していくと述べました。
更に、中国について「中国も、ウクライナの戦争に対する民主主義国の結束した対応を注視している。中国に正しいメッセージを送らなければならない」とロシアへの制裁に反対する立場を示している中国に警戒感を示しました。
4.ウクライナ親露政権打倒の首謀者
ヌーランド国務次官はオバマ政権下でヨーロッパ・ユーラシア担当の国務次官補として、2014年にロシアによるクリミアの一方的な併合への対応に当たるなどウクライナをめぐる外交政策に長く携わってきた人物ですけれども、2013年にウクライナで反政府デモを起させ、2014年のマイダン革命を扇動したとも言われています。
これについて、中国問題グローバル研究所所長で筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は、2015年1月31日、CNNのインタビューで、当時のオバマ大統領が「クーデターに、背後でアメリカが関与していた」という事実を認めたことや、ヌーランド氏が、新しく樹立させようとした親米のウクライナ政権に関して、人事まで決めていた会話が録音されてリークされたことを挙げ、更には録音の中でヌーランド氏がEUを「クソったれ!」と罵り、後に自身がそれを謝罪したことまで指摘しています。
遠藤誉氏は更に、そのリークされたヌーランド氏の会話録音の中に一ヵ所「バイデン」の言葉があるとして、「背後でアメリカが動いていた」という、その人物たちのトップには、「バイデン副大統領がいた」ということを証明していると指摘しています。
先日より、アメリカのペロシ下院議長が台湾訪問するかどうかで米中間の緊張が俄かに高まっていますけれども、そのタイミングでヌーランド国務次官が日本にやってきた。
これは筆者の単なる妄想ですけれども、あるいはヌーランド氏は日本に対して、台湾有事が近いことを耳元で囁いたのではないかとさえ。

5.効果がなければ撃ち落とせ
仮にペロシ下院議長が台湾を訪問したとすると、中国も黙っている訳にはいかないでしょう。
人民日報系の環球時報の胡錫進前編集長は7月29日に「台湾に入るペロシ氏の搭乗機を米軍戦闘機がエスコートすれば、それは侵略だ。人民解放軍には警告射撃や妨害を含め、搭乗機と戦闘機を強制的に駆逐する権利がある。効果がなければ、撃ち落とせ」とツイートしたものの、規定違反だとされて非表示となり、後に削除したとされています。
まぁ、本当に撃墜してしまったら、それこそ戦争になってしまいますから、流石に考えにくいですけれども、それに近いことはあり得ます。それは接触事故を装った「刺し違え」です。
つまり、中国の戦闘機がペロシ議長の乗った輸送機に接近・威嚇するだけではなく、わざと接触して落とすのではないかということです。
実は、20年以上前に同じことを中国はやっています。
2001年4月1日、南シナ海上空において、アメリカ海軍のEP-3Eが偵察中に中国空軍のF-8戦闘機と接触しました。衝突したF-8は、姿勢を回復することなくそのまま南シナ海へ墜落。EP-3Eは左側外舷エンジン(第1エンジン)と左翼下面アンテナを損傷、機首のレドームもはずれ海南島の陵水飛行場へ緊急着陸しました。
EP-3Eの乗員24名は中国軍側に拘束されました。
その後の経緯は次の通りです。
1日:中国外務省が「全責任は米国にある」との報道官談話発表。米太平洋軍総司令官「中国機側に回避義務があった」と反論。中国が面子を保ちつつ、米中戦争に至らない方策となると、これをまたやる可能性はあると思います。
2日:ブッシュ米大統領、米当局者と乗員との面会、乗員と期待の早期返還を要求。
3日:江沢民中国国家主席、「全責任は米国にある」と発言、中国沿岸での偵察飛行停止を要求。中国、事件に関する謝罪と釈明を要求。米外交団が米機乗員と初の面会。ブッシュ大統領、米中関係への悪影響に懸念発表。
4日:江主席、米国に謝罪要求。パウエル米国務長官、中国機乗員行方不明に遺憾の意表名。銭副首相あてに「事件が招いた苦痛を遺憾する」との書簡出す。
5日:中国、パウエル長官の遺憾表明を「正しい方向への一歩」と評価。ブッシュ大統領も中国乗員不明に遺憾発表。南米歴訪中の江主席が「米中関係の利益に考慮した対応を」と発言。ホワイトハウス報道官、米中交渉の進展を示唆。
6日:銭副首相がパウエル長官への返書で「米中関係を損ねることを望まず。問題解決には謝罪が極めて重要」と表明。米外交団が乗員と2度目の面会。
8日:米外交団が乗員と3度目の面会。パウエル長官がテレビで米機の領空進入に「おわび」
9日:ブッシュ大統領が「米中関係悪化の恐れが日ごとに増している」と警告。米外交団が乗員と4度目の面会。
10日:米外交団が乗員と5度目の面会。中国外務省報道官が「おわび」発言を評価。
11日:新華社が「唐中国外相が米国のプリアー駐中国大使に対し、乗員24人が出国手続きを行うことを認めると伝えた」と報道。米ホワイトハウスも「米中両国が乗員解放で合意した」と発表。
6.ペロシのバックパッシング
万が一、こんな"事故"が起こったとしたら、中国はこれを台湾海峡に空母を出して、海峡封鎖するかもしれません。そうなったら、日本は石油が入らなくなる、あるいは迂回航路をとることになり、大幅なコストアップになります。
もし、ヌーランド国務次官がこうした事態になるかもしれないと、日本側に告げ、対策を急ぐように囁いたとしたら。
無論、政府はエネルギー確保に走るでしょうし、防衛費増加に走るでしょう。岸田総理はたとえ自分が望んでいなくても、安倍元総理が主張していたとおりに実行するしかなくなります。それが「覚醒」したように見えているだけではないかということです。
また、逆にペロシ下院議長が日和って台湾訪問を見送ったら、先日のアフガン撤退よろしく、アメリカの同盟国からの信頼が失墜するのは当然のことながら、アメリカは守ってくれないという疑念を呼び、自主防衛に動くことになるでしょう。
一種のショックドクトリンです。
台湾は今以上にアメリカの兵器を買うことになるでしょうし、日本は憲法改正待ったなし、防衛費は何倍も必要になります。
昨年9月7日のエントリー「バイデンの隠された大戦略」で、アメリカの屈辱的ともいえるアフガニスタンからの撤退劇は、面倒事を他国に押し付ける「バック・パッシング」戦略の可能性があると述べましたけれども、それを東アジアでもやるのではないか。
つまり、アメリカは、台湾有事を煽るだけ煽って、緊張を高め、日台を対中の尖兵にするのではないかということです。
件のエントリーで筆者は、台湾を巡るバック・パッシング戦略には、いつまでも周辺国がアメリカのいいなりになってくれるとは限らない危険な面があると述べましたけれども、仮に日台がアメリカ側で踏ん張ったとしても東南アジア諸国が悉く中国側についてしまったら、中国が手を回して、周辺海峡を封鎖することだって出来るかもしれません。
なんなら、年がら年中どこかの海峡で軍事演習でもしてやれば、タンカーなど通れなくなります。これもまた石油、ガスが入ってこなくなってしまいます。
ペロシ下院議長に訪台計画について、評論家の石平氏は「もしもペロシがC国の恫喝に屈して台湾訪問をやめれば、それこそC国は台湾に侵攻しますよ」とツイートしていますけれども、果たしてバイデン政権はどこまで先を読んでいるのか、民主国家の結束など掛け声だけなのか。今や世界は運命の岐路に立っているのかもしれませんね。
もしもペロシがC国の恫喝に屈して台湾訪問をやめれば、それこそC国は台湾に侵攻しますよ。意地でも訪台して米国の威信を示してください。露の宇侵攻で米国に対する同盟国の信頼が薄らぐ中で、これはさらに拍車をかけることになりかねません。 pic.twitter.com/2B4HC4lHtj
— take5 (@akasayiigaremus) August 1, 2022
この記事へのコメント