

1.ペロシ台湾に立つ
8月2日深夜、アメリカのナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問しました。ペロシ氏は下院議長として、大統領権限の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職にあり、過去25年間で最も高位のアメリカ政治家による訪台となりました。
世界中が注目する中、懸念された中国の武力行使もなく、ペロシ下院議長は無事台湾に到着しました。
ペロシ下院議長は到着直後に同行している議員らと声明を発表し、「アメリカ議会の代表団の台湾訪問は、台湾の活力ある民主主義を支援するというアメリカの揺るぎない関与を示すものだ……世界が専制主義か民主主義かの選択を迫られる中で、2300万人の台湾の人々とアメリカの連帯はこれまでになく重要だ」とし、今回の訪問について「長年にわたるアメリカの政策と矛盾するものではない。アメリカは一方的に現状を変更しようとする試みに反対し続ける」と、アメリカの台湾政策に変更はないと述べました。
翌3日、ペロシ下院議長は蔡英文総統と会談しました。
蔡総統は会談で、「ペロシ氏は台湾の最も大切な友人だ。各分野で台湾との関係を進めていただいた」と謝意を示した上で、「台湾海峡の安全は世界の焦点だ。台湾が侵略を受ければ、インド太平洋地域の衝撃となる。台湾は軍事的脅威に屈しない。台湾は民主主義を守り、世界の民主主義国家と協力する」と米台の連携が重要だと訴えました。
対するペロシ下院議長は、「台湾が多くの挑戦を受けている中で、米台が団結することが非常に重要だ。それを外部に示すために訪台した……アメリカは台湾や世界の民主主義を守る」と述べました。
会談では経済にも話が及び、蔡総統は「貿易やサプライチェーンの安定が重要だ」との認識を示し、米台が6月に設立した新たな枠組み「21世紀の貿易に関する米台イニシアチブ」を通じても関係を深めるほか、台湾が得意とする半導体製造での協力も検討していくとしました。
会談には、安全保障政策に携わる台湾側の高官らも同席。中国の軍事的脅威に対応するため、アメリカからの武器売却を含めた台湾の自衛能力向上についても意見交換したようです。
2.統治の問題を話し合う
ペロシ下院議長は蔡英文総統との打ち合わせに先立って、台湾の立法院(国会)を訪れ演説しています。
その要旨は次の通りです。
我々の訪問はシンガポール、マレーシア、韓国、日本を含むインド太平洋地域への幅広い訪問の一環であり、相互の安全保障、経済連携、民主的統治に焦点が当てられた。 台湾の指導者との協議では米国による支持を再確認し、自由で開かれたインド太平洋地域の推進を含む共通の利益を促進することに重点を置く。そして、ペロシ下院議長はこの中で「今回の訪問には3つの目的があります。第1に世界の安全保障、第2に経済的な繁栄の拡大、第3に"統治"の問題を話し合うことです」と台湾を訪問した目的について明らかにしました。
世界が独裁か民主主義かの選択に直面するなか、米国が台湾の人々との連帯を示すことはかつてなく重要だ。我々の訪台は長年にわたる米国の台湾政策に反するものではない。米国は一方的な現状変更の試みに反対し続ける。
ペロシ下院議長の訪台について、アメリカのブリンケン国務長官は事前に「議長自身が決めることだ……もしペロシ議長が台湾訪問を決め、それに対して中国が危機を作り出したり、緊張を高めたりするなら、責任は全て中国政府にある」とペロシ下院議長本人の決断だと牽制発言をしていましたけれども、ペロシ下院議長が訪台の目的を明かし、とくに特に"統治"の問題を出したことは強烈に中国を刺激します。
いくらバイデン政権が、バイデン政権は「三権分立」のもと、下院議長であるペロシ氏の行動をコントロールできない、ペロシ下院議長個人の判断だ、アメリカ国家の意思ではないといったところで、決して中国はそう思わないでしょう。
3.台湾は中国ではない
ペロシ下院議長の訪台について、事前に「中国は座視せず、必ず強力な対抗措置を取る」などと何度も警告していた中国ですけれども、結果として堂々と訪台され面子が潰されました。
それでもなんだかんだと「抵抗」の意思は見せました。
ペロシ下院議長が2日夜に台湾に到着した直後、中国軍で東シナ海を所管する東部戦区は2日夜から台湾周辺で軍事演習を開始すると発表。台湾の北部や南西部、それに南東部の空と海上で軍事演習を行うほか、台湾海峡でも長距離の実弾射撃などを行うとしました。
台湾国防部(国防省)によると、台湾南西部の防空識別圏には2日、中国軍の戦闘機や早期警戒機など計21機が進入したようです。
また、2日、台湾総統府の報道官は総統府のサイトが、大量のデータを送りつけてシステムをダウンさせようとする「DDoS攻撃」と呼ばれるサイバー攻撃を受けたと発表。攻撃は台湾域外から行われ、攻撃のデータ量は通常の200倍にのぼり、サイトの表示が一時できなくなったものの、およそ20分後に復旧したようです。これも証拠はありませんけれども、普通に考えれば中国からの攻撃とみるべきでしょう。
中国の5つの機関が、2日深夜、一斉に非難声明を出しました。
声明を出したのは、外務省、国防省、全国人民代表大会常務委員会、国政助言機関である全国人民政治協商会議外事委員会、共産党中央台湾工作弁公室で、中国では外交上の重大事案とみなした場合に複数の機関が声明を発表するケースがあるとされています。
実際、2012年9月に日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化した際にも複数の機関が声明を出しています。
更に中国外務省は2日深夜に、アメリカのニコラス・バーンズ駐中国大使を呼び出して抗議しました。
国防省は2日の声明で、ペロシ氏の訪問に「強い非難と断固反対」を表明し、「中国軍は高度に警戒警備し、一連の軍事行動で対抗する」と主張。4日からも「重要軍事演習行動」として台湾周辺の6ヶ所で実弾射撃を行う予定としています。
もっとも、ペロシ下院議長が台湾を離れた後にいそいそと演習するということは、まだ本気でアメリカと事を構えたくないということでしょう。
ただ演習を行う6ヶ所というのが、台湾をぐるりと取り囲むように設定しているところを見ると、アメリカと直接対峙しない代わりに台湾に思いっきり圧力を掛けるということだと思います。
ただ「一つの中国」といっているくせに、台湾をまるで敵対国かのように扱っている時点で、台湾は中国ではないと自分で認めているようなものです。
台湾有事は日本有事。日本も有事の対応が求められると思いますね。

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