中国の台湾封鎖は本物か

今日はこの話題です。
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1.中国軍の軍事演習継続


8月8日、中国軍で東シナ海を所管する東部戦区は、この日も台湾周辺の海域と空域で軍事演習を実施したと発表しました。

中国軍は当初、台湾周辺での「重要軍事演習」を7日まで行うと予告していたのですけれども、延長した形です。

演習をさらに継続することで台湾側に揺さぶりをかけ、圧力を強めるねらいがあるとみられています。

中国外務省の汪文斌報道官はこの日の記者会見で「台湾は中国の領土であり、みずからの領土の周辺海域で正常な軍事演習を行っているものだ。これは国内法や国際法、国際的な慣例にも合致する……アメリカのペロシ下院議長は中国の断固とした反対と、たび重なる申し入れにもかかわらず、事実上、アメリカ政府による容認と手配のもとで公然と台湾を訪問した。われわれの措置は騒ぎを起こした張本人に警告を発し、台湾独立勢力を懲らしめるのが目的だ」と述べ、演習を正当化しました。

これに対し、台湾国防部は、オンラインで記者会見し、「中国軍の演習は基本的にわれわれの訓練の空間と反応の時間に圧迫を加えるものだ。われわれは引き下がらず、より積極的に対応する」と述べ、中国側に反発しました。

中国外務省の汪文斌報道官は8日の記者会見で「台湾は中国の領土であり、みずからの領土の周辺海域で正常な軍事演習を行っているものだ。これは国内法や国際法、国際的な慣例にも合致する」と述べ、正当化しました。

そのうえで「アメリカのペロシ下院議長は中国の断固とした反対と、たび重なる申し入れにもかかわらず、事実上、アメリカ政府による容認と手配のもとで公然と台湾を訪問した。われわれの措置は騒ぎを起こした張本人に警告を発し、台湾独立勢力を懲らしめるのが目的だ」と述べ、演習の意図を強調しました。


2.台湾軍の対上陸実弾演習


一方、台湾は軍当局が7日、9日と11日(10、12日は予備日)に最南端の屏東県の楓港一帯で中国の侵攻に対する防衛を想定した対上陸実弾演習を行うと発表しました。数百人の部隊と榴弾砲約40両を配備するとしています。

演習区域の一部は中国軍の演習区域の一部と重なっているそうで、ドキッとしたのですけれども、実際は中国軍の演習終了に合わせて恒春空港に台湾軍のヘリコプターが着陸。中国の演習とは時間的に重ならないようにしたようです。

演習について台湾軍は、7月22日に発表済の定期訓練であって、中国の演習に対抗して行われるわけではないと説明していますけれども、対抗する積りがなければ、もっと後に延期してもよい訳で、それを「予定通り」に行ったということは「対抗する」気満々だと思いますし、またそうでなければいけないと思います。


3.台湾封鎖に踊らされるな 


ネットでは、中国軍の演習の仕方から、台湾封鎖だとか開戦が近いなどという意見もチラホラあるのですけれども、静岡県立大学特任教授で軍事アナリストの小川和久氏は「台湾封鎖」に踊らされるなとする意見を、自身のブログで述べています。

小川氏は件の記事で、中国軍の能力の実態について述べています。該当部部を次に引用します。
そして、実を言えば今回の弾道ミサイル発射は、中国が台湾への本格的な上陸作戦能力に欠け、台湾本島にも上陸作戦に適した海岸線(上陸適地)が10%ほどしかなく、海軍と空軍も台湾周辺で海上優勢(制海権)や航空優勢(制空権)を握る能力がなく、むろん海上封鎖の能力にも乏しいことを自覚した結果でもあるのです。強硬姿勢を示すには、弾道ミサイルの発射しか手段がなかったのです。

これまでにも書いてきたように、台湾に上陸侵攻して占領するためには第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦に匹敵する100万人規模の陸軍部隊を投入する必要がありますが、中国にはそれに必要な3000万トンから5000万トン規模の船腹量を捻出できるだけの船舶がありません。2隻が就役した4万トン級の強襲揚陸艦と海兵隊(陸戦隊)の上陸作戦の能力は限られたものです。

海上封鎖にしても、特に日本と領海を接する台湾北東海域は日米の海空軍と軍事衝突する可能性が高く、しかも世界の頂点に位置する日米のASW(対潜水艦戦)能力などの前には、脆弱性をさらさざるを得ない中国海軍は封鎖線を展開することさえままならず、台湾を出入りする船はこの海域を利用できることから海上封鎖は成り立ちにくいのです。

海上優勢や航空優勢にしても、マスコミに登場する航空機や艦船のカタログデータではなく、編成途上にある空母打撃群と航空機運用の習熟度や、ハイテク化されるほどに重要性を増すデータ中継衛星など軍事インフラの角度から眺めると、中国軍の能力に対する評価は一変するはずです。

ことあるごとに登場する空母キラー(対艦弾道ミサイル)にしても、時速50キロ以上で移動し、米本土と比べても最も濃密なミサイル防衛の傘を差した空母打撃群を攻撃する能力は、それが備わっていないのは軍事インフラを見れば明らかです。空母キラーを機能させるには、発見→位置の確定→継続的追跡→空母の重層的な防御の突破→戦果の確認という流れに必要な能力が備わっている必要があります。韓国の打撃力と同じキル・チェーンという名で呼ばれていますが、中国側には索敵から戦果を確認するまでの動きに必要な衛星(データ中継、偵察)、レーダー、偵察機などが基本的に不足しており、米空母側にはキル・チェーンを寸断する能力が備わっているのです。

このような中国に対して、ペロシ訪台時に米軍がどのような凄みを見せたか、少しご紹介しておきましょう。事前にミリー統合参謀本部議長が「訪台は望ましくない」と懸念を伝えていたように、軍事の専門家集団にとってペロシ訪台は厄介な動きでした。しかし、シビリアンコントロールのもと、米軍は任務に忠実に不測の事態に備え、中国を圧倒して見せたのです。

ペロシ議長の一行はマレーシアのクアラルンプールから台北入りした訳ですが、直行すれば4時間ほどのコースを7時間かけてフライトしました。これは中国が管轄権を主張し、埋め立てた岩礁に滑走路などを建設している南シナ海上空を避けたためです。

中国との関係が良好であれば、ペロシ議長を乗せた空軍の要人輸送機C−40C(ボーイング737のビジネスジェット版)は南シナ海上空を直行できたでしょう。しかし、中国が反発する中での訪台です。沖縄の嘉手納基地から出動したKC−135空中給油機5機を伴ったF−15戦闘機18機が護衛した状態ですから、南シナ海上空の飛行は軍事衝突を招きかねません。しかも、中国の海空軍の戦闘機は夜間の洋上飛行にはまだ不慣れです。威嚇するために接近してきたのが、機体が接触したり衝突する場合もある。それで迂回ルートをとった訳ですが、同じとき米軍は中国側がたじろぐほどの戦力を台湾周辺で突きつけていたのです。

フィリピン海から沖縄東方海上にかけては、原子力空母ロナルド・レーガン(FA18戦闘機48機を搭載)、強襲揚陸艦トリポリ(F−35B垂直離着陸ステルス戦闘機20機)、同アメリカ(同)がそれぞれ護衛艦艇を伴って展開していました。戦闘機だけで実に88機。これはオランダの空軍力に匹敵する強力な布陣です。そして、この戦闘機を活動させるために37機のKC−135空中給油機(嘉手納基地所属機15機、増強部隊22機)が出動したのです。1機のKC−135はこれらの戦闘機10機平均を満タンにすることができます。37機のKC−135は延べ370機の戦闘機を満タンにすることができる訳です。FA18同士でも空中給油は可能です。

これは台湾周辺に展開していた空母遼寧と山東を含む中国海軍に壊滅的な損害を与えるに充分だったことは言うまでもありません。特に中国が苦手な夜間戦闘になれば、その結果は目に見えていました。

この米国側の本気度と凄みを見せつけられたせいだけではないでしょうが、中国側は台湾周辺での軍事演習をペロシ議長が台湾を離れたあとの8月4日から7日の間に設定しました。

とにかく中国としては、11月の共産党大会での習近平国家主席の3選続投を控えています。メンツをつぶされたままでは、国内世論の突き上げでその路線が揺らぐかも知れない。弱腰でないところを見せるためには、日本の排他的経済水域を含む演習海域に弾道ミサイルを撃ち込むのが、それなりに望ましい選択だったのです。
このように小川氏は中国軍には台湾本島に大兵力を揚陸させる能力はなく、海上封鎖も碌にできないと指摘した上で、今回のようにミサイルを撃ちこむのが関の山だ、と述べています。


4.邦人避難計画


それでも、たとえ中国軍は台湾上陸できなくとも、市街地にミサイルを撃ちこまれたら堪ったものではありません。要は台湾政府を降伏させればよいのですから、市街地に何発がミサイルを撃ちこんで、多数の一般市民が犠牲になったとき、それでも台湾の人達が徹底抗戦するのか、諦めて降伏を選ぶのか、まだ分からないところがあります。

8月4日、蔡英文総統は、中国に自制を求めるとともに、台湾の住民に「すべての人々が一致団結し、与野党が協力し合って、主権や民主主義を守っていくことを望んでいる」と呼びかける談話を発表していますけれども、台湾では「中国の脅威は今に始まったことではない」と冷静に受け止める人が少なくないようです。

ただ、本当に有事になった場合は、中国は軍事侵攻する前に、サイバー攻撃で金融・通信から信号まで何もかもストップさせた上で、小規模の特殊部隊で上陸。複数のミサイルを適当なところに撃ち込んで、陽動しつつ、電撃的に総統府を占領、あるいは政府首脳を拘束するなどといった斬首作戦をやってくるなど色んな方法が考えられます。

同時に、日本に対しても、尖閣上陸と同じくサイバー攻撃で金融通信、交通網のテロをしかけて大混乱に陥れ、台湾支援の足を引っ張ってくる筈です。

勿論、あらゆるケースを台湾、アメリカ、日本の各政府も考えているはずでしょうから、それなりの備えをしていると思いますけれども、大兵力を上陸させる能力がないからといって、台湾有事は起きないと考えるのは危険だと思います。

また、いざ有事となった場合、台湾に居る邦人避難の問題もあります。

現在、台湾在留の日本人は2万人を超えるともいわれています。たとえ不十分な海上封鎖であっても、今回の中国軍の演習のように台湾をぐるりと囲むように軍艦を配置されてしまえば、救援の船や航空機を台湾に送ることは難しくなります。

これは他国とて同じで、とくに台湾に多くの居留者がいる国にとっては深刻な問題です。

台湾には約70万人の外国籍の人や出稼ぎ労働者がいるのですけれども、中でもフィリピンはその約20%、13万人以上を占めているそうです。

既にフィリピン政府は台湾からの避難計画を発表したなどという「噂」もあるようですけれども、13万人の避難とは尋常ではありません。

その意味では、台湾有事に世界で一番神経を尖らせているのはフィリピンだともいえ、在台フィリピン人の動きを見ていくことで、有事の切迫度が分かるかもしれません。

翻って、日本の備えはどうか。

8月7日、フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に出演した自民党の佐藤正久外交部会長は「まさに台湾有事の際に、日本の沖縄の先島諸島も含めて、巻き込まれるという前提に立って、見ないふりをするのではなく、しっかり現実を見て、そういう備え、住民保護も含めてしっかりやってくれ……最悪のシナリオに基づく備えは今からやらなければ、急にはできない」と述べ。台湾在住の日本人の救出保護計画についても、台湾やアメリカ政府と連携して検討していく必要性を強調しています。

要は避難計画がないということです。本当であればお寒い限りです。

現時点では、在台邦人の方々は、台湾在住の他国の人、特にフィリピン人の動きを注視しつつ、自己防衛を図ったほうがよいかもしれませんね。


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この記事へのコメント

  • >それを「予定通り」に行ったということは「対抗する」気満々だと思いますし、またそうでなければいけないと思います。

    中国はアメリカの挑発には乗りませんよ。台湾も今の元首は口だけだし、政治家の大半は親中派。中国と戦っても何の利もありません。どこまで行っても、アメリカは騒動起こそうと躍起なだけです。
    2022年08月10日 09:37

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