台湾有事シミュレーションの衝撃

今日はこの話題です。
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1.習近平が指示した日本EEZへのミサイル発射


中国軍が4日から台湾周辺で始めた大規模軍事演習で、日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイルを着弾させた件について、習近平主席自ら指示したことが明らかになりました。

複数の中国筋が11日までに明らかにしたところによると、中国軍が演習区域として台湾を取り囲むように六つの空・海域を設定した際、今回の日本のEEZを演習エリアに含める案と、含めない案の2つを立てたそうです。

含めない方の案は、今年が日中国交正常化50周年であることを考慮したそうなのですけれども、この2案を提出された習近平主席は、実際の台湾制圧作戦となれば台湾に近い南西諸島海域の軍事封鎖は避けられないため実戦性を重視してEEZと重なる案を選んだと伝えられています。

となると、日本のEEZにミサイルを撃ちこんだのは、日本に対して台湾有事に介入するなというメッセージだったということになります。

実際、岸信夫・前防衛相も会見で中国軍のミサイル発射について「我が国の安全保障および国民の安全に関わる重大な問題で強く非難する」と非難し、EEZ内への落下を「意図してあの地域に落下させたと思う」と語っていますから、政府もそのメッセージを理解していると思われます、


2.中国との対話を考えていた岸田政権


政府は9月29日の日中国交正常化50周年を控え、外相会談をはじめ中国との対話を深め、関係を安定化させる戦略を描いていました。

日本は当初、中国の軍事演習に抗議せず、中国が軍事演習の海域を発表した後の3日の時点では「懸念」の表明にとどめていました。

そして、翌日の4日、中国が日本のEEZにミサイルを撃ちこみ、日中外相会談もキャンセルされたにも関わらず、翌5日、松野官房長官が記者会見で「米中両国の関係の安定は国際社会にとって極めて重要だ。同盟国・米国との強固な信頼関係の下、中国に大国としての責任を果たすよう働きかけたい」と引き続き中国との対話を重視する方針を強調していたくらいです。

もっとも、その裏ではG7外相の共同声明を発表。4日午後、中国外務省の抗議を受けた日本の垂秀夫駐中国大使は、「中国による一連の軍事演習は、地域の平和と安定を損なうものだ」と反論。EEZ内へのミサイル発射についても「受け入れられない」と抗議し、「日中関係の局面が大きく変化することになる」と通告しています。

実際、この日を前後に日本政府はこれまでの対中融和姿勢を転換せざるを得なくなったわけですけれども、その切っ掛けはアメリカのペロシ下院議長の訪台にあることは間違いないでしょう。

ただ、12日、中国の孔鉉佑駐日大使は、台湾周辺で実施した大規模軍事演習に関して「米国の政治的挑発と『台湾独立』勢力への対抗措置だ。日本とは関係ない……日本の利益に影響が及ぶものではない」と主張する談話を出してきました。

9月の日中国交正常化50年の節目を前に、関係悪化を避けたいのではないかという見方もあるようですけれども、ミサイルを撃ちこんでおきながら、ヌケヌケとよく言えたものです。


3.台湾有事シミュレーション


いつ起こるか分からない台湾有事に日本も早急に備える必要があるのですけれども、8月6日、民間シンクタンク「日本戦略研究フォーラム」が主催する台湾有事を想定したシミュレーションが自民党の国会議員ら参加の下、行われました。

日本戦略研究フォーラム(JSFF)は、1999年3月、国家運営の一翼になればとの強い意志で、政治、経済、軍事、科学技術など広範かつ総合的な国家戦略研究を目的として設立された社団法人です。

国際政治戦略、国際経済戦略、軍事戦略および科学技術戦略研究を重点的に行うと共に、その研究によって導き出された戦略遂行のため、現行憲法、その他法体系の是正をはじめ、国内体制整備の案件についても政策提言を行う外交安全保障を主軸としたシンクタンクです。

今回行われたシミュレーションでは、主催者が設定した台湾有事のシナリオをもとに、閣僚役の議員らがNSC(国家安全保障会議)に見立てた会議を開き、対応を話し合いました。

参加したのは小野寺元防衛大臣ら元政府高官や自衛隊の元幹部で、それぞれ「疑似政府」の一員として、総理大臣や官房長官、統合幕僚長らの役割を担いました。

シミュレーションは2027年8月、中国が台湾の北側に演習区域を設定して実弾射撃を開始し、米中の緊張が高まる事態を想定。さらに尖閣諸島周辺に、武装したとみられる約200隻の漁船が押し寄せるという「複合事態」などを想定した架空のシナリオに基づいて行われました。

丁度、中国軍が台湾周辺で演習を行った時期に行われただけに、緊迫感が漂っていたのですけれども、シミュレーションで総理大臣役をやった自民党の小野寺五典議員は、「よりこのシミュレーションが現実味を帯びて、その緊迫感が今日のシミュレーションの中にはあったかと思います。言ってみれば台湾有事はこういう形で日本の有事に波及するということが、今回のシナリオの中では明確になったんじゃないかと思います」とコメントしています。

ただ、台湾有事に対する日本の姿勢について、日本戦略研究フォーラム顧問で元陸上幕僚長の岩田清文氏は次のように述べています。
前号の佐藤研究員のエッセイからバトンを受け継ぎ、今回は台湾有事研究会発足への思いを綴りたい。

正式な国交がないとの理由からか、或いは北京からクレームが来るのではという憶測からか、防衛省・自衛隊には、台湾問題は公的には触れない方が無難という雰囲気が長く続いている。1972年の日中国交正常化以降、約50年間続いたこの公的関係の空白状態は、台湾が日本防衛に極めて重要な位置付けにあるにも拘わらず、自衛隊と台湾軍との交流さえも閉ざしてきた。

結果、台湾軍がどれほどの実力を持ち、中台紛争生起時においては、どのように戦い、どの程度持ち堪えられるのかを理解している現役自衛官は殆ど存在しないであろう。ましてや我が国の南西諸島に戦火が及んできた時に、日本政府と台湾総統府、或いは自衛隊と台湾軍がどのように連絡・調整するのかさえも定まったものは存在しない。台湾空軍と航空自衛隊とのホットラインさえもなく、まさに我が国防衛における真空領域といっても過言ではない。
自衛隊と台湾軍との交流はおろか台湾軍の実力さえ日本側は把握しておらず、台湾空軍と航空自衛隊とのホットラインさえもない真空領域とは空恐ろしい状況です。




4.アメリカが行った22回のウォーゲーム


こんな状況では、日本が台湾有事に台湾を支援しようにも碌なことすら出来ない可能性もあります。

となると、頼りになるのはアメリカ軍しかありません。

そんな中、今月に入って、ワシントンの軍事専門家グループは台湾を巡る最終的な米中戦争のシミュレーションを行っています。

これは、2026年に中国が台湾侵攻する未来予測の下、対応するアメリカの軍事行動を想定したもので、米戦略国際問題研究所(CSIS)のアナリストと共に退役軍人・海軍士官、国防総省の元当局者らが西太平洋と台湾の地図上で、小さな木製の定規、青と赤のボックスで表現される軍隊を動かしていくシミュレーションを9月まで続けるそうです。

多くのシナリオでは中国が武力統一のために台湾に侵攻し、アメリカが大規模な軍事介入を決定するといった必ずしもそうなると限らない前提や、日本は国土が攻撃されない限り直接介入しないものの、国内米軍基地の使用権拡大を認めるといった全く確実でない想定も用いられています。

一連のシナリオに核兵器の使用は含まれておらず、使える武器は2026年までに配備する具体的な計画があるか、これまでに証明された能力に基づいているそうです。先日のペロシ下院議長の訪台に反発して中国が実施した軍事演習でのミサイル試射は、シミュレーションで既に想定された中国の能力を裏付けたとされているところをみると、それなりの精度はあるとみてよいかと思います。

その結果は12月に公表される予定だそうなのですけれども、米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザー、マーク・キャンシアン氏は「全てではないが大半のシナリオで、台湾が侵攻を撃退できるとの結果が示された。しかし台湾のインフラストラクチャーと経済、太平洋の米軍の損害は非常に大きいだろう」と述べています。

キャンシアン氏によると、これまで机上で行った22回の「ウォーゲーム」のうち18回では、中国のミサイルが米軍などの水上艦の大部分を海に沈め、「数百機の地上の航空機」を破壊するものの、アメリカ・台湾の海空軍が無防備な中国の水陸両用艦と水上艦に反撃を加え、最終的に約150隻を沈めるとなっているそうです。

キャンシアン氏はアメリカ軍の損害が大きい理由について、「アメリカは制空権と海上優勢を確立する前に中国の艦隊、特に水陸両用艦を攻撃するために軍を派遣しなければならない。損害のスケール感を理解するために言うと、直近のウォーゲームでは4週間の戦闘で、アメリカは戦闘/攻撃機900機余りを失った。アメリカ海軍・空軍の保有機数の半分近くに相当する」と指摘しています。

キャンシアン氏によれば、中国のミサイル戦力には「圧倒的威力と十分な在庫」があるため、長距離ミサイルを搭載したアメリカの潜水艦と爆撃機がとりわけ重要になるそうで、「台湾軍にとっては対艦ミサイルが重要であり、水上艦と航空機の重要性は低い」と指摘しています。

これだけの被害が出るとなると、果たしてアメリカはそこまでの被害を出してまで台湾を護るのかどうか、それだけの覚悟があるのかどうか不安になってきます。

それにアメリカ軍が台湾に駆けつけるまでの時間も考えると、より近い日本の役割は重要であることはいうまでもありません。

台湾有事は日本有事であり、無関係だとは全く言えるはずもありません。

日本政府、自衛隊は台湾軍とのホットライン開設や双方の交流を行い、有事の対応について密に協議を進めて置く必要があるのではないかと思いますね。
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