北戴河で吊し上げられた習近平

今日はこの話題です。
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1.北京の取り付け騒ぎ


8月20日、北京市で地元の主要銀行である北京銀行から預金を引き出そうと、市民らが行列をつくる騒ぎが発生しました。

これは前日19日に北京市当局が個人向け医療保険口座へ9月1日以降に入金したお金について、引き出せずに積み立て用に使われる制度を導入すると発表。従来は使い道にかかわらず引き出せたのが、指定病院などでの支払いに限定するとしたことを切っ掛けに不安が広がったのが原因とみられています。

市中心部の北京銀行支店前では、店に入りきれない人が行列を作り、「国家を信用しても大丈夫ですよね」などと従業員に詰め寄る預金者が出るなど、騒然としたようです。

従業員が「お金は引き出せます。2、3日すれば行列もなくなるから、それから来て」などと説明したそうですけれども、河南省の4銀行で4月以降、数十万人が預金を引き出せなくなる騒動が起きたこともあり、金融機関や監督当局への不信から、預金者らが敏感になっているとみられています。

現在、中国経済の低迷が叫ばれていますけれども、市民も金融危機の発生を警戒し敏感に反応するようになっています。


2.今年三回目の利下げ


8月22日、中国人民銀行は今年3回目となる利下げに踏み切りました。2022年8月のローンプライムレート(LPR:最優遇貸出金利)は1年物に加え、住宅ローン金利などの目安となる期間5年超の金利も引き下げました。2つのローンプライムレートを同時に下げ、景気回復を促す狙いと見られています。

優良企業に適用する貸出金利の参考となる期間1年のローンプライムレート(LPR)は3.65%と、7月までの3.70%から0.05%引き下げ、5年超のローンプライムレート(LPR)金利は4.30%と、7月までの4.45%から0.15%下げています。

前回利下げは5月で期間5年超の金利のみを0.15%下げていますけれども、期間が異なる2つのローンプライムレート(LPR)を同時に下げるのは1月以来、7ヶ月ぶりのことです。

8月18日、中国国務院は常務会議を開き「企業の資金調達や個人の消費者ローンのコストが下がるよう推進していく」と宣言していますけれども、夏に入り、一部の都市で武漢ウイルスの感染が再び広がったのですけれども、中国政府は感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策を堅持。地元政府が移動制限を厳しくし、内需の戻りが遅れています。

資金需要も、社会全体が7月に銀行や市場から新たに調達した資金(社会融資規模)は前年同月を3割下回り、企業や家計向けの中長期融資の純増額も45%減っています。

米欧などの中銀は高インフレに対応するため利上げを進めている中、人民銀行は物価上昇の動向にも着目するものの、景気回復の遅れに対する危機感が勝り、追加利下げに踏み切ったと見られています。


3.ゼロコロナ政策による行動制限が景気下振れリスク


人民銀行のローンプライムレート(LPR)引き下げを受け、22日、市場では中国本土不動産株が物色対象となりました。ハンセン本土不動産株指数は、前日比1.28%高。不動産管理サービスの碧桂園服務(6098)は3.9%高、中国不動産開発大手の碧桂園(2007)は3.2%、中国政府系デベロッパーの華潤置地(1109)は1.7%高と上昇しました。

また、中国本土株は上海総合指数が前日比0.6%高の3,277.79、CSI300指数は同0.73%高の4,181.40と小幅高となりました。

ところが、翌23日は、中国本土株は上海総合指数が前日比0.05%安の3,276.22、CSI300指数は0.49%安の4,161.08と、景気鈍化への根強い警戒感が相場の重荷となり、午後は前日終値で一進一退の動きとなりました。

中国当局の景気刺激策に期待感はあるものの、相場にはダイレクトに効いてはいないようです。

今後の経済見通しについて、日本総研は8月の月次レポートで次の様に報告しています。
◆景気は最悪期を脱出
中国の4~6月期の実質GDPは前年同期比+0.4%(前期比年率▲10.0%)と前期の同+4.8%から失速。ゼロコロナ政策を続ける政府は、新型コロナの感染者数が増加したことを受けて、今春に上海市などで厳しい行動制限を実施。人出の落ち込みに伴い、個人消費が減少。工場の操業停止や物流の停滞を受けて、製造業の生産活動も下振れ。その後、行動制限の緩和や政府の景気対策により、6月の小売売上高は前年比増加に転じたほか、工業生産は2カ月連続で増加するなど、景気は最悪期を脱出。

◆景気は持ち直しへ
政府は、景気回復を目的に、乗用車取得税の減税や地域商品券の配布など消費刺激策を実施。先送りされた需要の顕在化に加えて、これらの政策効果により個人消費は持ち直していく見通し。政府は、地方債発行の前倒しや金融債の追加発行などにより、インフラ投資の支援策を強化。インフラ投資を中心に固定資産投資も回復へ。景気は内需主導で持ち直していく見通し。4~6月期の景気が行動制限により想定以上に下振れたことに加え、年後半も一定の行動制限が残ることを踏まえ、2022年の実質成長率は+3.4%と従来予測から1.0%ポイント引き下げ。2023年は、国内外で新型コロナの感染が収束することを前提に+5.2%と予想。一方で、政府が行動制限を再び広範囲に発動する可能性も。その場合、景気のさらなる下振れは避けられず。
日本総研は、中国経済は最悪期を脱出して持ち直していく見通しながら、ゼロコロナ政策による行動制限が景気下振れリスクになるとしています。

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4.北戴河で吊し上げられた習近平


習近平主席が主導している「ゼロコロナ政策」について、中国政府内でも失敗だったとの見方も浮上しています。

8月6日、海南省は、突然、三亜市のロックダウンを発表し、当時島内にいた15万人の観光客が足止めされるという事態を引き起こしました。7日間完全隔離されたのち5度のPCR検査陰性の結果をもって離島できる、といったルールに観光客らの不満は爆発し、大騒ぎとなったのですけれども、12日、海南省当局は「3日間の社会面清零(ゼロコロナ隔離政策)に失敗した」と述べ、海南省旅游文化ラジオスポーツ庁の汪黎明副庁長は、「帰宅手配の進捗状況は、観光客の皆さんの期待に応えられなかった」と謝罪しています。

翌13日、コロナ問題担当の孫春蘭副首相は海南省の現場に訪れて状況を視察し、一刻も早い感染撲滅を指示したものの「ゼロコロナ」という言葉を使いませんでした。

中国では、8月1日から15日まで、政治局常務委員7人の動静が一斉に途絶え、16日になって李克強首相が突如、深圳に現れたことで、北戴河会議が終わったのだと見られているのですけれども、今年の北戴河会議で習近平主席が長老達から吊し上げにあったのではないかと囁かれているようです。

ジャーナリストの福島香織氏は、「地方政府が公式にコロナ政策を失敗であったと認めるのも珍しいし、孫春蘭がゼロコロナ政策について全く口にしなかったのも珍しい。このことから、北戴河会議でゼロコロナ政策への批判が起き、習近平自身がゼロコロナ政策の失敗を認めざるを得ない状況があったのではないか、という推測も出ている」と述べ、ニューヨーク在住の華人評論家、陳破空氏の「実際、習近平が肝煎りで打ち出してきた経済政策の中国製造2025、雄安新区、一帯一路などは暗礁に乗り上げている。長老たちに批判されたんじゃないか」という見解を紹介しています。


5.対日微笑外交への転換


北戴河会議で何が話し合われたのかは公開されていないので、詳細は分かりませんけれども、現代ビジネスコラムニストの近藤大介氏は、8月16日以降の中国幹部たちの動向や発言、それに『人民日報』、新華社、CCTV(中国中央広播電視総台)など官製メディアの報道から、「習近平総書記の留任は承認された。ただし条件がついて、それは中国経済を「V字回復」させることだ」という推測を述べています。

近藤氏は、中国経済を回復させるためには「鄧小平軍事委主席が提唱し、推進した"改革開放政策"を、本気で推進していくしかない。そのためには、特に周辺国との関係を宥和的にして、外資を導入し、貿易を活発化させていかねばならない」と述べ、それゆえに、日本に対しても「対日微笑外交」に転換したのではないかと指摘しています。

8月17日には、秋庭剛男国家安全保障局長が突然、天津に赴いて、中国外交トップの楊潔篪(よう・けつち)党中央政治局委員兼中央外事活動委員会弁公室主任と、第9回日中ハイレベル政治対話を行いましたけれども、8月4日にはカンボジアのプノンペンで予定されていた林芳正外相と王毅国務委員兼外相の日中外相会談を、中国側が開催の数時間前にキャンセルしていたことを考えると、中国側に突然の「方針転換」があったのだろうと近藤氏は推測しています。

ここで面白いのは、中国側が会談相手に選んだのは、林外相ではなく、秋庭国家安全保障局長だったという点です。中国の外交トップが、日本の外交トップを無視して、次官級を相手に選んだのですね。

林外相は、王毅外相に日中外相会談をキャンセルされた後、「このように状況が緊迫しているときこそ、うまくコミュニケーションをとることが重要だ。日本は中国との対話に常にオープンだ」とコメントしていたにも関わらず、その対話の相手にしなかったのです。

もしかしたら、中国からみても林外相は「使い物」にならない、と見做されているのではないかとさえ思えてきます。

今回の天津での会談は7時間にも及びましたけれども、近藤氏によると、中国の本音は「日本とは関係改善したいが、台湾問題への口出しはならない」というもののようで、8月18日付の新華社の「台湾は中国領土の不可分の一部分である。台湾問題は中日関係の政治的基礎であり、両国間の基本的信義である」とか、同じく18日付の環球時報の「このところ、中日関係は少なからぬ風波を経験したが、主要な理由は、日本の対中政策が目に見えて消極化したこと、特に台湾問題で一部の悪辣な言行があったことだった。例えば最近のペロシが訪台を強行した後の態度は、中国国民の対日観を著しく悪化させた」といった報道を紹介しています。


6.保守分断工作


これらのことから、近藤氏は、9月27日の安倍元総理の国葬に台湾の蔡英文総統を呼ばないことや、日本が台湾やアメリカと組んで「半導体包囲網」を敷かないことなどが含まれているだろうと述べているのですけれども、だとしたら、中国としては来月の国葬ななんとしても開催して欲しくない筈です。

8月20日、日経新聞は「狙われる自民党総裁選 世論分断に中国・ロシアの影」という記事を掲載し、昨年の自民党総裁選について公安からの情報として次のように述べています。
日本でも21年の自民党総裁選は異様な盛り上がりをみせた。

SNS上で高市早苗氏と河野太郎氏の支持者とみられる人が互いに批判し合う書き込みが目立った。党内が分裂しかねないと懸念した高市氏自身が「(総裁選は)たとえ正反対の意見であっても尊重し合う場です」と沈静化を呼びかける事態になった。

公安調査庁の元幹部は「証拠は見せられない」と断った上で、党内対立をあおる投稿は中国発が多かったと語る。発信は北京時間の午前9時から午後5時の間が目立ち、組織的な関与を裏付けると話す。
つまり、当時、自民党内の党内対立をあおる投稿は中国からのものだというのですね。

現在、安倍元総理の国葬について、やるべきだ、やるべきでないと国論が二分していますけれども、これにも、中国の工作が入っている可能性は十分あると思います。国葬そのものがなくなってしまえば、蔡英文総統の来日もなければ、西側諸国による対中包囲網の確認・強化もなくなる訳ですから。

もっとも、国葬の件は閣議決定され、世界各国に通達されていますから、今更撤回はないと思いますけれども、中国の工作が入っているのであれば、開催が近くなるにつれて、今度は「蔡英文を呼ぶな論」が俄かに湧き上がってくることも十分考えられます。

天津会談で何が話し合われたのか分かりませんけれども、安倍元総理の国葬に台湾の蔡英文総統が出席するかどうかは、岸田政権の姿勢を示す一つの試金石になるのではないかと思いますね。


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