

1.国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります
8月24日、岸田総理は、総理官邸で第2回グリーントランスフォーメーション実行会議を開催しました。
オンラインで参加した岸田総理は、次のように発言しました。
本日も有識者の方々には貴重な御意見を頂き誠にありがとうございました。まず、今日の会議につきましては私自身リモートでの参加となっておりますことをお詫び申し上げます。政府はこれまで、原発の新設や建て替えについて、「想定していない」との考えを示していたのですけれども、今回岸田総理は、次世代の原子炉の開発や建設を検討するよう指示し、2023年夏以降、最大17基の原発の再稼働を目指す方針を示したことで、方針転換したかたちとなっています。
その上で、本日はGX実現の大前提でありますエネルギー安定供給の再構築について御議論いただきました。ロシアによるウクライナ侵略によって、世界のエネルギー事情が一変し、かつグローバルなエネルギー需給構造に大きな地殻変動が起こっている中で、我が国は今後の危機ケースも念頭に、足元の危機克服とGX推進をしっかり両立させていかなければなりません。岸田内閣の至上命題として、グローバルにどのような事態が生じても、国民生活への影響を最小化するべく、事前にあらゆる方策を講じていきます。
電力需給ひっ迫という足元の危機克服のため、今年の冬のみならず今後数年間を見据えてあらゆる施策を総動員し不測の事態にも備えて万全を期していきます。特に、原子力発電所については、再稼働済み10機の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります。
GXを進める上でも、エネルギー政策の遅滞の解消は急務です。本日、再エネの導入拡大に向けて、思い切った系統整備の加速、定置用蓄電池の導入加速や洋上風力等電源の推進など、政治の決断が必要な項目が示されました。併せて、原子力についても、再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示されました。
これらの中には、実現に時間を要するものも含まれますが、再エネや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギーです。これらを将来にわたる選択肢として強化するための制度的な枠組、国民理解を更に深めるための関係者の尽力の在り方など、あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう、与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください。
ウクライナ情勢や中国経済の動向によっては、今年や来年の冬に供給リスクを抱えるLNG(液化天然ガス)については、万が一の危機ケースも念頭に、事業者間融通の枠組みの創設やアジアLNGセキュリティ強化策に早急に着手するとともに、緊急時にも対応できる枠組を検討し、早急に結論を出してください。
次回以降の会議では、成長指向型カーボンプライシングの基本的な枠組、産業構造転換・グローバル戦略などGXの加速・前倒しに向けた議論を加速させ、年末には、具体的なGX戦略・成長戦略の取りまとめを行ってまいります。
この岸田総理の方針表明に、保守系の識者からは評価する声も上がっているようです。
2.核燃料工場検査で虚偽報告
原発再稼働、新設に舵を切った原発政策ですけれども、原発の安全審査が通ればそれでよいのかというと、まだ不十分です。
なぜなら、安全審査は原子炉だけはないからです。
現在、原発で使う核燃料の国内製造が、3年半にわたって止まっています。というのは、製造を手がける国内の3社が、新規制基準にもとづく原子力規制委員会の安全審査をクリアできていないからです。当然ながら、原発の再稼働にこぎ着けても、燃料がなければ運転できません。
5月18日、原子力規制庁は、核燃料製造国内3社のうちの1社である三菱原子燃料が、核燃料製造工場の検査に関し、検査官に対する虚偽報告や記録の改竄をしていたと明らかにしました。原子力規制庁は意図的な不正行為に当たると認定し、再発防止を求めました。

原子力規制庁によると、三菱原子燃料は核燃料加工工程で使用する分析装置を床に固定する耐震補強工事を行っていたのが、2021年12月に規制庁の検査官が現場確認をした際「工事は行っていない」と虚偽の説明をしたほか、辻褄を合わせるために関係書類を差し替えたとのことで、同様の不正は他に117件あったとしています。
三菱原子燃料の担当者は「工程のプレッシャーが大きかった。認識が甘かった」と説明していて、三菱原子燃料がある茨城県と那珂市は厳重注意したそうですけれども、分析装置を床に固定する耐震補強工事をわざわざしたのに、昨年12月に「工事をしていない」との説明していたことをあげつらって虚偽説明だとするのには釈善としないものを感じます。
耐震補強工事を行うことは、安全性を高めることになりますから、褒められこそすれ、咎めらえるものではない気がします。当時の説明と一致してないからダメだというのはあまりにも杓子定規に過ぎないのではないかと思います。
経済評論家の朝香豊氏によると、三菱原子燃料が安全性審査書類を提出しても、原子力規制委員会が年単位で放置して、全然調査にこないため、三菱原子燃料が待っている間に、更なる安全対策にと手直ししたら、原子力規制委員会が書類と違うじゃないかとイチャモンを付けてきたようなのですね。
それが不正行為だなんだとなって、いつまでも許可が下りないのだとしたら、再稼働を邪魔しているのは原子力規制委員会の方ではないかとさえ思えてきます。
3.特定重大事故等対処施設建設
原発再稼働に対する原子力規制委員会の要求は先述のイチャモンだけではありません。
2019年4月、原子力規制委員会は「原発のテロ対策施設の完成が遅れた場合、運転停止を求める」との判断を下しました。
テロ対策施設とは「特定重大事故等対処施設」と呼ばれるもので、「故意による航空機衝突やその他のテロリズムにより、炉心の著しい損傷が発生するおそれがある、または発生した場合に原子炉格納容器の破損による放射性物質の放出を抑制する」ための施設です。
「特定重大事故等対処施設」の主要設備としては、減圧操作設備、注水設備、第2フィルタ付ベント設備、電源設備、緊急時制御室などがあるのですけれども、ミサイルを撃ち込まれたり、飛行機が突っ込んきたりするレベルのテロに、これで対応できるのか疑問です。そもそも、そんなテロへの対策をテロに対する知見など持っていないであろう一民間企業に求めるのはおかしな話で、本来は警察や自衛隊が行ってしかるべきものです。
そもそも、ウクライナを見ても分かるとおり、その気になって破壊しようとすれば、ありとあらゆる手段が取れる訳で、特定重大事故等対処施設も、無いよりはマシとはいえ、ちょっとズレている感は拭えません。
もちろん、この特定重大事故等対処施設建設は、原発再稼働に必要なコストとなります。
17日、原子力規制委員会は、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機の特定重大事故等対処施設の設置計画について、新規制基準に適合するとして正式に許可を出していますけれども、この施設の総工費を東電は約1700億円と見込んでいます。

4.原子力規制は利用を止めるための規制であってはならない
このような原子力規制委員会の審査の在り方については、与党から厳しい意見も出ています。
5月12日、自民党の原子力規制に関する特別委員会は、原子力規制委員会の審査効率化など求める提言をまとめています。
提言では「審査の多くが行政手続法上の標準処理期間である2年をはるかに超えて遅延している」と指摘。規制委に対し、既に合格した原発の審査結果を活用するなど、迅速化に向けた工夫をするよう求めています。
特別委員会長の鈴木淳司衆院議員は、「規制委発足から10年になるにもかかわらず、いまだに再稼働が10基しかないのが現実。危機感を強く持っている」と述べていますけれども、提言の最後でも「いかなる技術にもゼロリスクはない。原子力規制は、利用を止めるための規制であってはならず、いかに安全に動かすかが問われている。角を矯めて牛を殺すといった事態になってはならない。その点、まさに求められるのは規制の「最適化」であり、その実現のためには原子力規制委員会・原子力規制庁側、事業者側双方の努力が強く求められる」と訴えています。
「原子力規制は、利用を止めるための規制であってはならず」とか「角を矯めて牛を殺すといった事態になってはならない」とか、こんなことが書かれているということは、裏を返せば、いまの原子力規制委員会がそうなっていると見られているということではないかと思います。
この提言の内容がどこまで岸田総理に理解されているか分かりませんけれども、再稼働、新設を指示したはいいが、原子力規制委員会が壁となって実現できなかった、あるいは遅延したなどということが無いようにお願いしたいですね。
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