アフリカを奪い合う欧州と中国

今日はこの話題です。
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1.チュニス宣言


8月28日、北アフリカのチュニジアで開かれた第8回TICAD(アフリカ開発会議)は、2日間の議論の成果を盛り込んだ「チュニス宣言」を採択して閉幕しました。

「チュニス宣言」の要旨は次の通り。
【日アフリカ協力】

持続可能な経済成長のための構造転換に向けたアフリカの努力を加速するべく、投資の促進や産業人材育成をはじめとする日アフリカ間の連携の重要性を再確認する。

【債務のわな】

アフリカ各国が不公正な資金調達に依存しないような環境をつくる努力を歓迎する。国際ルールを順守する健全な開発金融が重要だと強調。

【ウクライナ】

ウクライナ情勢への深刻な懸念を表明。対話と国際法の尊重を通じた平和や安定の重要性を強調する。穀物や農産物、肥料の世界市場への輸出再開を改めて要請する。

【核軍縮問題】

核兵器の使用がもたらす非人道的な結末を認識し、「核兵器のない世界」の実現に向けたコミットメント(責任)を再確認する。核拡散防止条約(NPT)の維持強化に取り組む。

【安保理改革】

国連安全保障理事会の改革を加速させるために協力していくことを決意する。
TICADで日本と共同議長を務めた開催国チュニジアのサイード大統領は共同記者会見で「今回多くの課題について議論できたことは大きな成果だ。一方でアフリカはいまも暴力や貧困、テロなどに悩まされている」と述べ、課題の解決に向けてさらなる協力が必要だという認識を示す一方で「今後も世界のパートナーたちと協力して、アフリカが誇る豊富な人材やさまざまな天然資源を活用していきたい」、地域全体の経済発展のため引き続き日本などとの関係強化を進めていきたい考えを示しました。


2.アフリカ支援に官民4兆円


今回のTICAD(アフリカ開発会議)の開会式に岸田総理はオンラインで出席し、今後3年間で官民合わせて総額300億ドル(約4兆1千億円)規模の資金を投入すると演説。アフリカを「共に成長するパートナー」と位置付け、「人への投資と成長の質を重視する」と表明しました。

演説の全文は総理官邸のサイトで公開されていますけれども、岸田総理はその300億ドルの内訳として、次の6つを挙げました。
1) グリーン成長の促進。「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」を立ち上げ、官民合わせて40億ドルの投資を行う。
2) 投資の促進。特に、活力ある日本とアフリカの若者が取り組むスタートアップに焦点を当てていく。
3) 最大約50億ドルのアフリカ開発銀行との協調融資を実施。債務健全化の改革を進め、強靱で持続可能なアフリカを支援するために、日本が新たに創設する特別枠最大10億ドルを含む。
4) アフリカを中心に、エイズ、結核、マラリアといった三大感染症対策支援及び保健システム強化に貢献するべく、次の3年間で最大10.8億ドルを新たに拠出する。
5) 人材育成。産業、保健・医療、教育、農業、司法・行政等の幅広い分野で、今後3年間で30万人の人材を育成する。
6) 地域の安定化。それは、「人」が潜在力を発揮する前提であり、アフリカの成長を実現する上で不可欠。難民支援だけでなく、彼らが自立して生計を立てられるところまで支援し、持続的な安定した社会の実現までカバーする。
岸田総理は、その他に、アフリカ諸国への食料支援として、約1.3億ドルの拠出や、アフリカ開発銀行との協調融資で3億ドルの食料生産強化支援や20万人の農業人材育成にも言及しました。

この後、岸田総理は、TICAD(アフリカ開発会議)の合間を縫って、10ヶ国・機関のアフリカ諸国首脳らと個別にオンラインで会談を重ねました。この10ヶ国・機関という数は、平成28年に安倍元総理が開催地のケニアを訪問してこなした12ヶ国と遜色なく、現在、大規模なインフラ支援を行う中国や、軍事面で結びつきの強いロシアがアフリカで影響力を拡大している現状からの巻き返しを狙ったと見られています。

ただ、今回、武漢ウイルス感染で、直接現地にいけず、オンラインとなったことについて、官邸幹部は「現場に行けば、今回の倍ぐらいの国々と話せた」と漏らしているそうです。

また、筑波大学の東野篤子教授は、22日放送のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」で「廊下での立ち話も外交では大事ですので、やはりその場で顔を合わせる、直に話をするということを考えると、オンラインではさまざまな制限があるのではないでしょうか……また、TICADとしては、日本に来てもらえる大事な機会でもあったと思うので、おそらくいろいろな効果が限定的になってしまうと思います」とコメントしていることを考えると、当初期待したものには届かなかったかもしれません。


3.グローバル・ゲートウェイ構想


また、中国に対抗してアフリカに手を入れようとしているのは欧州です。

2月17~18日、欧州連合(EU)とアフリカ連合(AU)は、首脳会談を開催、経済・社会・政治の広範にわたる協力関係の構築に向けた『共同ビジョン』を発表しています。

この中でEUはAUに対して、官民で少なくとも1500億ユーロ(約20兆円)を支援することを発表しました。この中には、投資のみならず衛生や教育の面でのサポートも含まれているそうですけれども、このプランは、EUが2021年末に発表した「グローバル・ゲートウェイ」構想に基づくものです。

グローバル・ゲートウェイ構想は、2021年から2027年の間に、EU機関およびEU加盟国が欧州投資銀行(EIB)や欧州復興開発銀行(EBRD)などの金融・開発支援機関と連携した「チーム・ヨーロッパ」が、民間企業とも協力しながら、最大3000億ユーロの投資を行う構想です。

その投資対象の分野は次の通りです。
・欧州の価値と標準に沿ったデジタル移行
・グリーン移行に向けたエネルギーの連結性
・持続可能かつスマートで強靭、包摂的、安全な運輸ネットワーク
・保健
・教育および研究
EUは、グローバル・ゲートウェイ構想での資金枠の半分を今回のAU向け支援に向ける決定をしたという訳です。

このグローバル・ゲートウェイ構想は、アメリカのバイデン大統領が、中国の「一帯一路」に対抗して音頭を取ったG7による途上国向けインフラ支援構想である「ビルド・バック・ベター・ワールド(B3W)」構想とも連動しており、当然ながらグローバル・ゲートウェイ構想もまた一帯一路を念頭に置いているとされています。

冒頭取り上げたTICAD(アフリカ開発会議)の「チュニス宣言」で、「債務の罠」について取り上げられていますけれども、一帯一路に関しては、途上国が「債務の罠」に陥るものだという批判は欧米からも出ています。

けれども、そもそも、途上国の少なくない国が中国のインフラ支援を受け入れた理由は何かというと、話の早さにあったという指摘があります。

途上国支援では、対象国の国内政治が色濃く反映され、経済的な合理性よりも政治が優先されるプロジェクトが少なくありません。

欧米は経済的な合理性を重視するため、なかなか支援を引き出すことができない一方、中国はその隙をついて、食い込んできたというのですね。


4.エネルギーと食糧危機に見舞われるアフリカ


グローバル・ゲートウェイ構想では、支援先のニーズを考慮し、現地社会に恒久的な利益をもたらすべく、持続可能で質の高いプロジェクトの実現を目指すことで、相手国は自国の社会と経済を発展させることが可能になる、と謳っているようですけれども、途上国と言ってもその有り様は多種多様です。

例えば、アフリカの多くの国は、紛争を抱えている状況にあります。農作物や鉱物など一次産品の価格上昇もあって一人当たりGDPが増えた国も少なくないものの、貧富の格差は依然として残されています。また、衛生状態が悪い国も少なくなく、基本的なインフラさえ整備されていない国もまだまだ残されています。

そんな国を相手に「欧州の価値と標準に沿ったデジタル移行」だの「グリーン移行に向けたエネルギーの連結性」だの唱えたところで、どこまで出来るのか疑問が生じるのは否めません。

それ以前に、アフリカはもっと根本的なところで問題を抱えています。例えばエネルギーと食糧です。

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、西側諸国とロシアの関係は悪化しています。欧州はロシアからの石油・天然ガスの輸入を大幅に削減する方針を打ち出したものの、代替先の確保に苦しんでいます。

アフリカは、たとえ産油国であってもエネルギー危機に直面すると予想されています。なぜなら、採掘した原油を自前で石油にまで精製できないからです。

アフリカの産油国は、石油精製インフラが未整備であり、原油を輸出し、精製された石油を輸入しています。したがって、原油価格が上昇しても、購入する石油価格も上昇するため、プラマイゼロ。むしろ精製した費用分だけ嵩んで貿易収支は赤字になります。

また、食糧についても、アフリカでは、気候変動と紛争、食糧は深く結びついています。

砂漠化が進むエリアでは、気温の異常な上昇が見られ、水資源が急速に枯渇します。それに伴い農作物が不作となり、また植生の変化に伴い遊牧民の行動ルートが変化していきます。

すなわち人々の農耕、遊牧パターンが変化し、彼らが新たな定住先に移動すると、その定住先で人口が増加。水資源や森林資源の過剰使用が進み、森林資源の消失や洪水などの環境悪化が進行します。

また、元からいた住民と新たに移動してきた人々の間で対立や衝突が発生したりします。

サハラ砂漠の南縁部には、マリ、ブルキナ・ファソ、ニジェール、ナイジェリア北部、チャド湖周辺地域、スーダンなどの国、地域が位置しており、こうした国の多くで紛争が発生したり、紛争リスクが高まったりしています。

こんな状況で始まったのがロシアのウクライナ侵攻です。これにより、穀物、肥料の生産及び物流が大幅に制限され、世界全体で食糧危機の拡大が懸念されています。

アフリカのサハラ砂漠より南の地域(サブサハラアフリカ)は、小麦輸入におけるロシアおよびウクライナの依存度が高く、アフリカ平均で小麦輸入の3分の1、セネガル、ブルキナ・ファソ、コンゴ民主共和国、マダガスカルでは半分以上をロシアとウクライナが占めています。

したがって、ロシアおよびウクライナからの輸出量の減少は、穀物や肥料価格の高騰を招き、アフリカの人々の生活に深刻なダメージを与えることになります。


5.アフリカは西側諸国を冷ややかに見ている


西側諸国のアフリカ支援に対して、アフリカは冷ややかに見ているという指摘もあります。

たとえばエネルギーについて、これまで、化石燃料の使用抑制を迫る西側諸国と、発展のために化石燃料の使用に依存せざるを得ない途上国の間で対立軸がありました。途上国にしてみれば、先進諸国は自分達だけふんだんに化石燃料を使って発展しておきながら、今になって化石燃料の使用をやめるよう言いだし、途上国の発展を邪魔しているように見えていたというのですね。

ところが、ロシアのウクライナ侵攻を機に先進諸国が、あっさりと手の平を返して、これまでの化石燃料に対するスタンスを弱め、我先にと天然ガス、石油、石炭等の化石燃料の確保に走り出す。こうした西側諸国の態度が、アフリカから冷ややかに見られていると言われています。

また、食糧についても、アフリカが直面する食糧危機に関して、西側諸国はその深刻さを理解していないと受け止められています。

ウクライナ侵攻以降、少なくとも30ヶ国で食糧輸出に対する制限措置がかけられているのですけれども、この西側諸国の保護主義的な対応に批判が高まっています。

5月に開催されたアフリカ諸国とEUとの国際会議では、ニジェールのバズム大統領は「西側諸国の資金援助額はあまり小さく、不十分」と批判し、セネガルのサル大統領は、西側諸国の対ロシア経済制裁に関し、「ロシアから欧州へのエネルギー供給に適用された経済制裁の例外が、小麦や肥料のアフリカ諸国への供給継続のためにも適用されるべきである」と、西側諸国のスタンスに不満を表明しています。


6.アフリカで存在感を高める中国


一方、中国や中東諸国もアフリカとの関係強化を急速に進めています。

中国は、長年にわたり、インフラ、通信、軍、民間ビジネス、文化など、あらゆる分野でアフリカと関係強化を図ってきました。ヨハネスブルグにあるIchikowitz Family Foundationが2021年にアフリカ15ヶ国で行った調査では、「ポジティブな影響を与えている国」として中国が76%を占め、アメリカの72%をしのぐ結果となっています。

また、イギリスのThe Economist誌が今年4月に行った調査でも、対象としたアフリカ7ヶ国すべてで、「影響力のある国」として中国がアメリカをしのぐ結果となっています。

また、トルコは、過去20年間でアフリカ大陸の大使館を12ヶ国から43ヶ国に増やし、アフリカとの貿易額を2003年の30億ドルから2021年には260億ドルにまで9倍に伸ばしました。

アラブ首長国連邦(UAE)もアフリカへのアプローチを強め、ロシアのウクライナ侵攻以降も、石油の他、農業や暗号資産でもアフリカ諸国へのビジネス展開を推進しています。この他、ロシア、インド、サウジアラビアもアフリカとの関係強化を図っているようです。

実際、今年3月に国連で行われたロシアのウクライナ侵攻非難決議では、アフリカ54ヶ国中、8ヶ国が欠席、17ヶ国が棄権し、1ヶ国が反対票を投じています。つまり、アフリカの約半数の国が西側主導の決議案に賛成票を投じなかったわけです。

アフリカ諸国は必ずしも西側諸国側に立っているとは限りません。

ですから、巨額投資を通じて、アフリカとの関係を強めようとしても、アフリカの事情やニーズを考慮せずに上から目線で対応するのであれば、中国やその他の国に足元を掬われる可能性があります。

JICAの志賀裕朗上席研究員は、ポスト・コロナの世界における国際協力について、次のように述べています。
アメリカやフランスは自由を、中国は安全を優先するというように、これまでは国によってどれを重要視するか違っていました。しかし、コロナで人々の命が脅かされる状況下では、自由を重視していた先進国でも、安全のためには自由を犠牲にし、多少の監視国家化は受け入れる方向に動いていくかもしれません。

また、中国のような権威主義国家は、国民の自由を無視した強権的な手法でコロナ感染拡大を抑止しましたが、今後はこうした手法を途上国に「輸出」するかもしれません。日本をはじめとする自由民主主義国家は、自国自身が「安全」だけを過度に重視する国にならないように努めるとともに、途上国においても、「自由」「安全」「豊かさ」の3つの要素がバランスよく守られる社会が構築されるように支援していく必要があります。
日本も岸田政権は「人への投資と成長の質を重視」という方針でアフリカ支援を行うとしていますけれども、人材育成にはそれなりの時間がかかります。その間に中国が"政治的合理性"と称して、「国民の自由を無視した強権的な手法」をアフリカに資金とセットで輸出していかないとも限りません。

日本の対アフリカ支援も、「自由」「安全」「豊かさ」を守りつつも、中国に足を掬われないようによくよく注意する必要があると思いますね。


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