

1.中華ドローンを撃墜
9月1日、台湾の国防部は、台湾が実効支配する金門島付近の空域で、国籍不明の「撮影用のドローン」を撃墜したと発表しました。
国防部によると、台湾軍はこの日の正午すぎ、金門島近くの小島、獅嶼付近の制限水域上空にドローンを発見。獅嶼の駐留部隊が警告を発したが反応しなかったため、銃撃して撃墜。ドローンの残骸は海に落下したとのことです。
ドローンは中国から飛来したとみられているのですけれども、中国軍は8月初め、アメリカのペロシ下院議長訪問に反発して実施した大規模な軍事演習中から、金門島付近の上空にドローンを繰り返し飛行させていました。
台湾軍は当初、照明弾などで警告を行ったが効果がなく、8月30日、蔡英文総統は澎湖諸島の空軍部隊を視察した際に「挑発行為に対し強力な対抗措置をとる」と指示。その後、台湾軍は中国からとみられるドローンに対し実弾で威嚇射撃を始めました。
翌31日には、国防部作戦計画担当幹部の林文皇氏は「われわれの12カイリの海空域に入る航空機や船舶については、軍が例外なく自衛と反撃の権利を行使する」と表明。この日、金門島近辺を飛行していた中国のドローンに向け照明弾を発射し、威嚇射撃を行っいました。
この日のドローンは中国に戻ったそうなのですけれども、翌9月1日に再び飛来し、今度は撃ち落されたという訳です。
台湾の国防当局者らは、周辺地域で中国の軍事パトロールが続いており、台湾海峡を「内海」にしようとする中国の意図が地域の不安定化の主因になると述べています。
2.台湾に1500億円の武器売却
9月2日、アメリカ国務省は台湾に対する11億ドル(約1500億円)規模の武器売却を承認したと発表しました。売却額のうち、6億6500万ドル(約930億円)はミサイル早期警戒レーダーシステム、3億5500万ドル(約500億円)は対艦巡航ミサイル「ハープーン」最大60発に充てられるとのことです。
アメリカは、先日のペロシ議長の台湾訪問を口実に、中国が現状変更を試みていると批判しており、台湾への防衛に関与する姿勢を改めて示すことで、中国を牽制する狙いがあると見られています。
アメリカ国防総省は「今回の売却は、現在や将来の脅威に対応する能力の向上につながることが期待される。アメリカなどとの相互運用性をさらに高めることができる」と述べ、台湾外交部は、「バイデン政権下で6度目、ことしだけで5度目の武器売却発表であり、台湾への武器売却を常態化する近年の政策が引き続き実行されている……今回は台湾の自衛力の強化に必要な多数のミサイルが含まれており、アメリカ政府が台湾の求めを非常に重視していることの表れだ」と歓迎のコメントを発表しています。
さらに、アメリカは遡ること8月27日、米海軍第7艦隊のミサイル巡洋艦「チャンセラーズビル」と「アンティータム」の2隻が台湾海峡を通過したことを明らかにしました。
第7艦隊報道部は「艦艇の台湾海峡通過は、自由で開かれたインド太平洋に対するアメリカの責務を示すものだ。アメリカは国際法が許す限り、どこでも飛行・航行し、活動する」と強調し、中国の台湾への軍事的な圧力を容認しない姿勢を明確にしました。
3.戦争が起きる可能性は十分に考えられる
このように台湾周辺がキナ臭くなってきていますけれども、国内でも台湾有事は日本有事という発言が要人から出てくるようになっています。
8月31日、麻生太郎副総裁は、横浜市内で3年ぶりに開かれた麻生派夏季研修会での講演で「沖縄・与那国島にしても与論島にしても、台湾でドンパチ始まるということになったら、それらの地域も戦闘区域外とは言い切れないほど、間違いなく国内と同じ状況になる。戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と「台湾有事」が勃発した場合、沖縄などが戦争に巻き込まれる可能性が考えられると指摘しました。
この発言は、有事への備えの必要を訴えるのは勿論のこと、9月11日の沖縄県知事選を多分に意識したものではないかと思いますけれども、台湾有事は日本有事であり、当然ばがら、それは沖縄有事でもあるということです。
沖縄主要メディアは知事選の争点を「米軍基地問題と沖縄経済」とし、世論調査で、最も重視する政策は「基地問題」と「経済・景気・雇用」がいずれも4割弱で拮抗したそうですから、少し危ういものを感じます。
麻生副総裁が警鐘を鳴らすように、「中国の脅威」や「台湾有事、沖縄有事」を警戒する必要があると思います。
これについて、軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「台湾政府は国防予算を14%引き上げるなど危機感が鮮明化している。日本の防衛費も、研究開発費や、自衛隊員の暮らしを支える人件費に加え、一触即発の有事に備えた『備蓄弾薬の充実』などを真剣に議論する段階にある。日本にとっても有事が目前にある可能性を国民に周知し、国防への関心を啓発すべきだろう」と指摘していますけれども、その通りです。
4.台湾有事に3つの懸念点
では、実際台湾有事となったら、日本にどういう影響があるのか。
先日、日本戦略研究フォーラムで、台湾有事を想定した机上シミュレーションが行われましたけれども、現時点で、日本の台湾有事への備えについて3つの懸念点が指摘されています。それは次の通りです。
1)事態認定と米軍の関与実際には、台湾有事にアメリカ軍が関与し、そのうえで存立危機事態が認められて初めて自衛隊の武力行使が可能になると見られています。
台湾が中国から攻撃を受けても、日本の法体系では独自の軍事支援は難しいという現実があります。日本の集団的自衛権の行使が認められるのは「密接な関係にある他国への武力攻撃が発生した場合」という「存立危機事態」に限られているのですけれども、現在日本は、公式には、台湾を「国」とは認めていない為、台湾が攻撃を受けても日本の存立危機事態には定義できない可能性があります。
また、物理的ではないサイバー攻撃など「グレーゾーン」の攻撃の場合、事態認定が追いつかない懸念も指摘されています。
2)自衛隊の体制このエリアにおける自衛隊の「継戦能力」どころか、即応体制すら十分とはいえないのですね。
台湾から近い南西諸島は、自衛隊の拠点整備が遅れているエリアで、「防衛力の空白地帯」とも呼ばれています。
このエリアは台湾有事で中国による攻撃の影響を受ける可能性があり、防衛体制の構築が急務です。
現在、陸自が与那国島や宮古島に駐屯地をつくり、石垣島にはミサイル部隊の配備をめざしていますけれども、南西諸島の防衛に必要な弾薬は2ヶ月分しか貯蔵がなく、南西方面で即応できる配置にはなっていません。加えて、相手の航空機や巡航ミサイルを迎え撃つ長射程のミサイルやイージス艦の導入計画も途上です。
3)邦人保護の問題自衛隊法84条には、在外邦人の保護について、「当該外国の同意」を前提に自衛隊が海外で邦人保護活動をすると定められています。空港や港湾施設を使った退避を見込み、日本政府と台湾当局で事前に擦り合わせる必要がある上に、先島諸島の住民避難も考慮しなければなりません。
台湾にはおよそ2万4千人の日本人がいます。これまで政府は朝鮮半島情勢の悪化を想定し、韓国からの非戦闘員退避活動(NEO)についてシミュレーションを重ねてきたのですけれども、台湾有事の計画策定はできていません。
宮古島市、石垣市、 宮古郡、八重山郡などの先島諸島の人口は2010年の国勢調査で105708人います。
実際に避難する場合は、沖縄本島や九州への退避が想定されるものの、10万人の住民を一度に避難させるのは簡単ではありません。
林芳正外相は日経新聞とのインタビューで「退避が必要な様々な状況を想定し、必要な準備・検討をしている」と語っていますけれども、政府は従来の難民認定とは別に、紛争地から逃げてくる人を「準難民」として受け入れるため法整備の検討を進めています。
これら課題を見る限り、有事即応体制が整っているとは到底いえず、これまで「お花畑」で目を瞑ってきたツケが来ているように思えます。
5.安全確保と有事認定のジレンマ
前述した台湾有事を想定した机上シミュレーションでは、次の想定で行われたそうです。
・2027年、中国の世論工作で台湾内で独立派と統一派が衝突し、台湾総統が襲撃された。続いて沖縄県・尖閣諸島に漁民が上陸し、中国軍の特殊兵のもようだとの情報が入るシミュレーションでは、国家安全保障会議(NSC)の9大臣会合を模し、刻々と変わる情勢にどう臨むかについて討論したのですけれども、ここれは、邦人輸送の安全確保と有事認定のジレンマが発生しています。
・中国は台湾周辺にも弾道ミサイルを撃ち込む。日本政府は邦人に中国や台湾から自主的な退避を呼びかけたものの情勢の悪化で民間の船舶や航空機は使えない。台湾に1500人、中国には11万人の日本人がいる
それは、尖閣の状況を日本が攻撃を受けた武力攻撃事態だと認定すれば、日本と中国の対立関係が決定的となり、台湾から自衛隊機で邦人を退避させようとしても、中国から攻撃されるなどのリスクが増すということです。
シミュレーションでは、総理役が「邦人の安全な輸送が最優先だ」と警戒監視を続けながら、邦人退避に全力を尽くすよう促す一方、防衛相役は「事態認定が遅れれば状況が困難になる」と強調。尖閣や先島諸島の防衛を最も優先する方針を示し、住民避難については前線部隊への物資輸送の帰りに支援する道を探りました。
このシミュレーションでは、より早い段階で避難を始める仕組みに課題があることも露呈しました。有事に至る手前で民間航空機などを活用した自発的な避難を促すだけでは間に合わず、総理役を務めた小野寺五典元防衛相は記者団に「国民の避難が少し後手に回った。法改正か新たな制度か、なるべく早く退避できるよう検討する必要がある」と語っています。
こうしてみると、現実を踏まえた、具体的かつ有効な体制を整えることが急務であることが分かります。
モタモタしている時間はありません。岸田政権も早急な法整備や防衛予算の整備に努めていただきたいと思いますね。
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