日本政府の為替介入と物価高対策

今日はこの話題です。
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1.ドル売り・円買いの為替介入


9月22日、政府・日銀は外国為替市場で円買い・ドル売りの為替介入を行いました。介入は、1ドル=75円台の戦後最高値を記録した際に円売り・ドル買いをした2011年11月以来、約11年ぶりのことです。円安局面での円買い・ドル売りの介入は、1ドル=140円台となった1998年6月以来約24年ぶり。

介入について、財務省の神田真人財務官は「足元の為替市場では、投機的な動きも背景に急速で一方的な動きがみられる……政府としてこうした過度の変動を憂慮しており、先ほど断固たる措置に踏み切った」と強調しています。

9月21日、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が会合で0.75%の利上げを決めた一方、日銀は22日の会合で大規模金融緩和の維持を決定しました。

それをうけ、22日の円相場は、日米金利差の拡大を受け一時1ドル=145円台後半まで下落したのですけれども、政府が為替介入に踏み切ったことが伝わると1ドル=141円台まで急騰しました。

為替介入は、自国の通貨が過度に変動するのが目的ですけえれども、円安を抑えたい場合は市場で円を買ってドルを売る動きになりります。その原資には外国為替資金特別会計が保有する外貨準備をあてるのが一般的です。

外貨準備とは、通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産のことで、財務省と日銀が外貨準備を保有しています。

日本の外貨準備は主にドルとされていて、そのドルの多くは証券すなわち米国債に投資されています。

日本の外貨準備高は、8月現在で1兆2920億ドル、1ドル=140円換算で約180兆円あります。

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2.過度な変動に対しては断固として対応


これについて、岸田総理は訪問先のアメリカでの記者会見で質問され、次のように受け答えをしています。
共同通信・笠井記者:政府・日銀は円安進行を阻止するため、円を買ってドルを売る、為替介入を実施しました。円安進行に歯止めをかける効果は一時的との見方もありますが、受け止めと政府の今後の対応についてお伺いします。

岸田総理:はい。為替ですが、為替は安定的に推移することが重要ですが、最近のこの為替市場では、投機的な動きも背景とした、急速で一方的な動きが見られます。

御指摘のように、この大きな為替の動きがあります。1年で30円以上円安に動いたのは過去30年ない状況であります。また、足元では、1日のうち2円以上も、円安が進行した、こうしたことでもありました。

為替相場は市場で決定されるのが原則でありますが、この投機による過度な変動が繰り返されることは、決して見逃すことができないと考えます。

このような考え方から、本日為替介入、これを実施いたしました。政府としては、引き続き、為替市場の動向を高い緊張感を持って注視するとともに、過度な変動に対しては、断固として必要な対応を採りたいと考えております。
このように、岸田総理は為替介入を実施したと明らかにした上で、過度な円安進行には断固として対応すると述べています。

そして、22日夜、鈴木俊一財務相は緊急記者会見し、急激な円安に歯止めをかけるため、外国為替市場に介入したと発表しました。

鈴木財務相は介入に投じた資金額や、日本単独での実施だったか、他国との協調だったかは明かさず「通貨当局とは連絡を常に取り合っている……今の時点では一定の効果が数字に表れている……一方的な円安の進行が望ましくないという認識を共有している」と語り、円相場の急変には今後も「必要な対応を取りたい」と述べ、再び介入する可能性は否定しませんでした。


3.市場へのサプライズとアナウンス効果


今回の為替介入で、一時的ながら円が5円近くも急騰していますけれども、介入直前まで円安が進行していました。

22日午後、財務省の神田真人財務官は22日午後1時半、報道陣に「正直申し上げて、まだやっていない。スタンバイの状態だ」と語り、介入していないと発言していました。

この時、為替はアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)による利上げや日銀の政策決定会合の結果を受け、一時1ドル=145円台をつけていました。

その後、日銀の黒田総裁が午後3時半から記者会見し、「今は経済を支えて賃金の上昇を伴う形で物価上昇の目標を持続的に安定的に実現することが必要であって、金融緩和を継続することが必要であると考えている。必要があれば追加的な金融緩和措置を講じる。金融緩和を続けることには全く変わりないので、当面、金利を引き上げることはないと思っている」と述べ、金融政策の将来の方向性を示すいわゆる「フォワードガイダンス」の変更は当面、必要だと考えていないとしたうえで「当面というのは数か月という話ではなくて、2、3年の話といういうように考えてもらって大丈夫だ。そうはいっても、その中で物価情勢に合わせて微調整はあるかもしれない。ただ、基本的なフォワードガイダンスの変更はやはりあくまで経済物価情勢の転換によって金融緩和策を修正していくものだ」と述べました。

そして、為替介入については「財務大臣の所管なのでコメントすることは差し控える。為替の先行きについて言うと大体失敗しますのでなんとも申し上げられない」と述べ、円安に関して政府から日銀に協力の要請があった場合の対応を問われても「そういったことは予想もしていないし、そんなことはないと思う」と答えました。

この黒田総裁の「当面 金利を引き上げない」発言を受け、円相場は145円台後半に値下がり、146円に迫りました。

ところがは午後5時過ぎに円高に急騰。その後財務省が記者会見を行い「効果を高める意味で、皆様に集まってもらった」と、政府の強い姿勢を内外にアナウンスする狙いがあったと説明しています。

「まだやっていない」から、「当面金利は引き上げない」とアナウンスして、一段と円安が進行したタイミングでのいきなりの為替介入しての緊急記者会見です。市場へのサプライズと介入効果を高めたい思惑が見え隠れしています。

この介入に与野党は様々な反応を示しました。

介入が報じられた直後、自民党幹部は「アメリカの長期金利の利上げのスピードが想定外に早く、日米の金利差が広がった。マーケットで円安が進みすぎる」と介入に一定の理解を示しましたた。

また、日銀出身の自民議員は、「介入しなければ150円まで行っていた……一時的にはこれで止まっても、これから為替当局の覚悟が何度も試される」と断続的な介入になる可能性を示唆しています。

更に、立憲民主党の泉健太代表は、記者団に「異次元金融緩和と日米金利差が続く以上、効果は限定的ではないか。アクセルとブレーキを一緒に踏むような政府と日銀の対応には説明を求めたい」と語り、共産党の小池晃書記局長は「小手先の介入で円安の大きな流れが止まるなんてことは誰も思わない。一時しのぎにもならない程度のものではないか」との見方を示しました。

実際、市場関係者からは「政府が保有するドルには限りがあり、介入は何度も出来ない」との指摘や、「日銀が金融緩和を続ける限り、アメリカとの金利差は広がるため円安の是正は難しい」といった見方が示されているようです。


4.円買い介入を容認するアメリカ


では、今回の政府・日銀の為替介入は、為替操作に当たらないのか。

6月10日、アメリカ財務省は為替政策報告書を公表しています。

この報告書は半期に1回、議会に提出されるもので、今回は財・サービス貿易の輸出入総額の上位20カ国・地域を対象に、2021年12月までの直近1年間の為替政策を分析・評価しています。

この報告書では「為替操作国・地域」に該当する国・地域はないと結論づけていますけれども、為替操作国・地域認定は、2015年の貿易円滑化・貿易執行法に基づく3つの基準の全てを満たしているかどうかを基に判断されています。

その3つの基準とは次の通りです。
(1)大幅な対米貿易黒字(年間150億ドル以上の財・サービス貿易黒字額)
(2)GDP比3%以上の経常収支黒字、またはGDP比1%以上の現在の経常収支と長期的経常収支の間の乖離、
(3)持続的で一方的な為替介入(過去12カ月間のうち8カ月以上の介入、かつGDP比2%以上の介入総額)
この3つ基準全てに該当しなくても、そのうち2つに該当した国・地域は「為替監視対象リスト」に登録されます。登録されると、少なくとも今後2回の報告書で監視対象国・地域として取り上げられ、3つの基準での改善が一時的でなく永続的なものとなっているかどうかについて評価されることになっています。

この「為替監視対象リスト」には、ベトナム、台湾、日本、中国、韓国、ドイツ、イタリア、インド、マレーシア、シンガポール、タイ、メキシコの12ヶ国が指定されています。

日本について、この報告書では、これまでと同様に、為替介入額を毎月公表するなど透明性が高く、2011年以降は為替介入自体行っていないなどと評価していますけれども、最近の急速な円安の進行について「日米金利差拡大が主因」「実質実効為替レートで50年ぶりの円安に近い水準」と指摘する一方で「為替介入は適切な事前協議を伴う非常に例外的な状況に限定されるべき」と日本政府による今後の為替介入を牽制していました。

今回の日本政府・日銀の介入について、22日、アメリカ財務省の報道官は「日本銀行は外国為替市場に介入した」との声明を電子メールで配布。「最近高まっている円の変動性の抑制を狙った行動だとしており、われわれはそれを理解した」と容認する姿勢を示す一方、協調介入は否定しています。

前述した6月の為替政策報告書で日本の為替介入について「適切な事前協議を伴う非常に例外的な状況に限定されるべき」と注文がついていることを考えると、今回の為替介入容認発言は、"適切な事前協議"を受けた結果のことと思われます。


5.外貨準備の含み益で物価高対策を行うべき


急激な円安という、そうそう起こらないであろう機会を利用して、ドル売り円買い介入するのは悪くありません。莫大な利益を手にできるからです。

冒頭で触れたとおり、日本の外貨準備高は、約180兆円あります。政府は、過去にドル買円売り介入をしたときに取得した外貨をそのまま保有しているのですけれども、その残高の中には、介入時のレートが現在よりもかなりの円高水準で取得した外貨も多く含まれています。

2011年には1ドル=77円程度で14.3兆円の外貨を取得しています。それが今や1ドル140円なのですから、倍近い含み益を得ている訳です。

実際に、この14.3兆円が丸々売れるかどうかは別として、半分売っても7兆円の利益が出る訳です。7兆円といえば、2021年度の消費税収21兆8886億円の3分の1になります。つまり、10%の3分の1、3%程度は減税できる財源が出来ることになります。

たとえ1年の限定であっても消費税減税は心理的インパクトがありますし、エネルギー資源高の今やることは大きな効果があります。

更に、外貨準備のドルを売っぱらわなくも、資源輸入の代金として使うという手もあります。

第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、次のように述べています。
1つのアイデアとして、資源輸入の代金として、外貨準備を使う方法がある。日本が2021年度に輸入した鉱物性燃料は、19.8兆円である。輸入する石油会社などは、鉱物性燃料を円資金からドル資金に換えて支払いをする。そのドル資金を政府から借り入れて賄うことはできないだろうか。

そのときの換算レートが1ドル138円ではなく、1ドル124円に設定すれば、約1割安く鉱物性燃料を石油会社は調達できる。つまり、ガソリンや灯油を消費者に1割安く販売できる。これは、ガソリン・灯油の小売価格を引き下げるという物価対策にもなる。

また、政府が石油会社に1ドル124円で外貨を貸し付けて、後から返済を受けるときに工夫すれば、含み益を実現できると考えられる。例えば、外貨準備の取得レート(簿価)が1ドル110円だったとしよう。資源の輸入代金1600億ドルを政府が石油会社に貸し付けて、その代金を1600億ドルX124円=19.8兆円の円資金で受け取るとすると、この取引で同時に1600億ドルX(124円-110円)=2.2兆円の実現益を得られる。これは、政府の税外収入になる。

日本政府は、為替介入してドル資産を売却していることにはならない。為替介入なしに為替の含み益を実現できるところがポイントである。
なるほど、外貨準備金の一部を国内に安く貸し付けることで、為替になんら介入することなく、資源を安く調達すると共に、政府も税外収入を得る、莫大な外貨準備高と、簿価と現在の価格差がそれなりに大きくないと使えない手だと思いますけれども、今の日本であれば十分に可能ですし、それを行い得る環境もあります。

支持率低迷にあえぐ岸田政権ですけれども、消費税減税とエネルギー資源購入・販売価格の引き下げは大きく国民にアピールできる筈です。是非とも検討していただきたいと思いますね。



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