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1.クレムリンへの無人機攻撃未遂
5月2日、モスクワのクレムリン宮殿に対する所属不明のドローンによる攻撃未遂事件が発生しました。
ロシア大統領府がこの日に出した声明は次の通りです。
大統領報道官によるメッセージ 2023年5月3日14:35クレムリンは、この短い声明で攻撃を試みたのはキエフ政権だと断じています。
昨夜、キエフ政権は、クレムリンのロシア連邦大統領官邸に対して無人機による攻撃を試みた。
2台の無人機がクレムリンを狙った。軍と特殊部隊によるレーダーシステムを使ったタイムリーな行動により、装置を無効化することができた。無人機はクレムリンの敷地内に墜落し、破片が飛び散ったが、死傷者や被害はなかった。
我々は、これらの行動を、戦勝記念日や外国からの賓客などが出席する5月9日のパレードを前に行われた、大統領を標的とした計画的なテロ攻撃および暗殺の試みと見ている。
大統領は、このテロ攻撃による被害を受けていない。大統領の仕事のスケジュールは変更されず、通常どおりの執務を行っている。
ロシアは、いつでもどこでも適切と思われる対抗措置を講じる権利を留保している。
また、声明では、プーチン大統領に被害はなかったとしていますけれども、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、プーチン大統領は攻撃とされる時間帯にクレムリンにいなかったと述べ、プーチン大統領はモスクワ郊外のノボ・オゴリョーボ公邸で一日を過ごすと付け加えました。
2.公開された攻撃の瞬間
今回のクレムリンへのドローン攻撃は、モスクワが5月9日の祝賀行事に備えているときに発生したもので、ロシアがナチスに対するソ連の勝利を記念し、プーチン大統領の中心的なイベントとされています。
ロシアのソーシャルメディアに流れた検証されていないビデオでは、事件とされるものの後、城壁に囲まれた城塞内のクレムリン宮殿の背後に青白い煙が上がっている様子が映っており、別のビデオでは、クレムリンで発生したとされる事件の後、ドローンの1つが壁に囲まれたクレムリン複合施設内の屋上ビルに衝突する瞬間が映しだされているそうです。
モスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長は、法執行の妨げとなるドローンの違法使用を防ぐとして、ロシアの首都上空での無許可のドローン飛行を禁止すると発表していますけれども、5月9日の祝賀行事はそのまま行うようです。
3.我々はプーチンもモスクワも攻撃はしていない
一方、ウクライナ側は、今回の攻撃について否定しています。
ウクライナのセルヒイ・ニキフォロフ大統領報道官は、「モスクワでの出来事は明らかに、5月9日を前に状況をエスカレートさせるためのものだ」との見方を示し、ウクライナ大統領顧問のミハイロ・ポドリャク氏は、これを機にロシアはウクライナの民間施設や民間人を標的にすることを正当化するかもしれないとし、「ロシア連邦で何かが起きている。しかし、ウクライナのドローンがクレムリン上空を飛んだなど絶対にあり得ない」と強調しました。
更に、ウクライナ内務大臣顧問のアントン・ゲラシチェンコ氏は、ツイッターに、クレムリンの上空に物体が飛来し、爆発・炎上する複数の映像を投稿。「伝えられているところでは、ドローンがクレムリンを攻撃した瞬間だ……モスクワ地方のロシア人パルチザン部隊によって行われたとの情報がある……このクレムリンへの攻撃でプーチン氏は負傷しなかった」とコメントし、ロシアのパルチザンがこの攻撃の背後にいた可能性が高いと述べています。
また、ゲラシチェンコ氏は別のツイートで、動画に赤丸のチェックを入れた上で、「何故、爆発前からクレムリンの屋根に人が登ってるのか」とツッコミを入れています。ただ、それに対しては「これは2回目の爆発だと思います。最初の爆発から損傷を検査する予定だったのかもしれません。いずれにせよ、これほど大きなドローンがこれほどゆっくりと飛行しているのが、はるばるウクライナからやってきた可能性はほとんどありません」とのリツイートがあります。
ゼレンスキー大統領も訪問先のフィンランドで「我々はプーチンもモスクワも攻撃はしていない。自国の領土で戦い、村や町を守っている。その兵器も十分ではないのだ」と関与を全面否定しています。
この返信ツイートで触れられているように、大型低速のドローンがウクライナから飛んでくるのは無理があるのではないかという指摘もあります。
ウクライナの国境からクレムリンまで最短450kmありますけれども、そこまで航続距離のあるドローンをウクライナは持っていないと言われていますし、あれほど大型のドローンをモスクワ中心まで侵入するまで防空システムが気付かないなんてありえないといった指摘です。
4.偽旗作戦と巴投げ
モスクワでは数ヶ月前から、重要な建物から近距離にある建物の屋上に防空システムが設置されています。これは、ウクライナやウクライナに共感する勢力が、モスクワの重要施設を空から攻撃しようとする可能性を、ロシア政府が警戒しているためだとされています。
アメリカの中央情報局(CIA)出身で元国務省幹部のミック・マルロイ氏はBBCに対し、ロシア側の発表が本当だった場合、プーチン大統領への暗殺未遂だったことは「ありえない」とし、なぜなら、ウクライナはプーチン大統領の行動を逐一追跡しており、当時プーチン大統領がモスクワにいなかったことを把握していたからだとしています。
マルロイ氏によると、この場合、その目的は「ロシアの人たちに、我々はいつでもどこでも攻撃することができる、ロシアがウクライナで始めた戦争はやがてロシアに到達する、ひいては首都に到達すると、示すための行動だったのかもしれない」とし、逆に、ロシア側の発表が事実と異なる場合、「ロシアはこれを口実にゼレンスキー大統領を標的にするため、この事案をでっち上げたのかもしれない。ロシアはこれまでもゼレンスキー氏を狙ってきた」からだと指摘しています。
後者は、いわゆる「偽旗作戦」ということになるのですけれども、アメリカのブリンケン国務長官は、攻撃が誰によるものかは「検証できる情報がない。分からない……クレムリンの主張は額面通りに受け止めることができない。事実関係が分からずに臆測で発言するのは難しい」とコメントし、ホワイトハウスのジャンピエール報道官も、「ロシアには偽旗作戦を行ってきた歴史がある」と述べ、まずは事実関係を慎重に見極める姿勢を強調しています。
このように、現時点では「偽旗作戦」の可能性も否定できません。
もし、今回の事件がロシアによる「偽旗作戦」だった場合、考えられる報復はキエフのウクライナ大統領府への爆撃でしょう。クレムリンがやられたからには相手の大統領府をやっつけるというのは報復として分かり易いからです。
更に付け加えるならば、ドローンの爆発がクレムリン宮殿に掲げられたロシア国旗の直ぐ横だというのも、なんとも象徴的というか意図的だと見えなくもありません。
裏を返せば、ロシアにとって、徹底抗戦を続け、停戦交渉に目もくれないゼレンスキー大統領がそれだけ疎ましいということだと思います。要するに、ゼレンスキー大統領を「始末」してしまえば、停戦に向けて状況を動かせると思っているのではないかということです。
そして更に、もうひと捻りしてみるならば、ロシアが自作自演をしてそれをウクライナに否定させることで、ウクライナからロシアへの直接攻撃させないよう自分で手足を縛らせるよう謀ったという線だって考えられなくもありません。
昨年10月22日のエントリー「プーチンは核の緊張を緩和したのか」で、プーチン大統領がウクライナがダーティボムを使うと発言し、それをウクライナに非難させることで、ウクライナがダーティボムを使えないようにする「巴投げ」を仕掛けたのではないかと述べましたけれども、それと同じことをしたのではないかという憶測です。
実際、メドベージェフ露国家安全保障会議副議長が3日、「ゼレンスキーと取り巻きを物理的に破壊する以外の選択肢は残っていない」とSNSで発言し、ゼレンスキー大統領は「プーチンもモスクワも攻撃はしていない。自国の領土で戦い、村や町を守っている」と発言しています。
つまり、偽旗だろうが何だろうが、結果として、プーチン大統領はキエフを直接攻撃できる口実と、ゼレンスキー大統領にモスクワ攻撃しないという言質を同時に手にした訳です。これを計算してやったとするならば、やはりプーチン大統領は役者が一枚上です。
ウクライナの攻撃にせよ、ロシアの偽旗にせよ、ロシアはこのまま何もしない訳にはいかなくなりました。ただ、本当に激しい報復に出るのなら、「偽旗」だった可能性が強くなりますし、逆に報復らしい報復をしないのであれば「巴投げ」だった可能性が出てきます。
果たしてロシアは、どういう行動に出るのか。要注目です。
Who are these people and why were they coming up the Kremlin roof right before the explosion? pic.twitter.com/qVoCJUZHwb
— Anton Gerashchenko (@Gerashchenko_en) May 3, 2023
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