お気持ち批判は続かない

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2023-09-04 170700.jpg


1.ALPS処理水の海洋放出に関する中国政府コメントに対する中国側への回答


東京電力福島第一原発の処理水海洋放出を巡り、中国政府が、8月31日付で日本産水産物の輸入を全面停止した措置を世界貿易機関(WTO)に通知したことがわかりました。

中国はWTOへの通知で、輸入停止について「公衆の生命と健康を効果的に守り、リスクを完全に抑える」ための「緊急措置」として、「公衆の健康と食物の安全に統制不可能なリスクを与える」と主張。日本政府の求める輸入停止の即時撤廃に応じる考えがないことを示したとみられています。

WTOの衛生植物検疫措置の適用に関する協定(「SPS協定:Sanitary and Phytosanitary Measures)では、他国との貿易に著しい影響を及ぼす措置をとった場合、加盟国に通知を義務づけています。

8月30日のエントリー「加速する中国の反日キャンペーンは逆効果」で、取り上げましたけれども、中国大使館は、 呉江浩大使が8月28日に岡野外務次官と面会した際に主張した内容として、処理水放出への批判をホームページ上に掲載し、「日本はいくつかの問題に回答すべきだ」としています。

これに対し、外務省は9月1日、「ALPS処理水の海洋放出に関する中国政府コメントに対する中国側への回答」とする反論声明を公開しています。その概要は次の通りです。
1)ALPS(多核種除去設備)は62の核種を確実に除去するように設計されていますが、半減期を考慮すべきなどのIAEAの指摘を受け、処理前の水に現実的に存在し得る核種は29核種であると考えています。IAEAは、包括報告書において、この選定方法は「十分保守的かつ現実的」と評価しています。また、日本の分析に加え、IAEA及び第三国機関の分析でも、その他の核種は検出されていません。こうした内容については、原子力規制委員会の審査やIAEAのレビューを通じて公開されています。いわゆる「60種類以上の放射性核種が含まれている」とする中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。

2)日本は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、政府が定める「総合モニタリング計画」に基づいて、包括的かつ体系的な海域モニタリングを行っています。同計画においては、東京電力のみならず、環境省、原子力規制委員会、水産庁及び福島県がモニタリングを行っており、その結果については各省庁のウェブサイト及び包括的海域モニタリング閲覧システム等において公開されています。放出開始後のモニタリング結果は、ほとんど検出下限値未満であり、検出されたものも極めて低い濃度であり、安全であることが確認されています。ALPS処理水は、計画どおりに放出されています。

3)ALPS処理水の海洋放出については、これまでIAEAの関与を得ながら、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で進めてきています。海洋放出開始後も、東電福島第一原子力発電所におけるIAEA職員の常駐に加え、同発電所からリアルタイムでモニタリング・データを提供しています。今後とも、IAEAの関与の下、国際社会が利用できるデータを公表します。また、IAEAは、日本のモニタリング活動に関するレビューを継続します。


外務省の反論は、中国大使館の3つのコメントそれぞれに対して、きっちり回答しており、回答の頭に「正確な事実は以下のとおりです」と枕詞をつけ、中国の主張は科学的でなく、事実と異なるとバッサリ。とりわけ処理水放出に関しIAEAのお墨付きを得ている事実は大きく、今後WTOのSPS委員会で反論する際にも大きな根拠になるものと思われます。


2.放射線を放つ蟹


福島第一原発の処理水放出を巡り、中国当局は過剰宣伝し、反日キャンペーンを始めたものの、早くもブーメランを浴びる事態となっています。

特に中国の飲食、漁業に大きな打撃を与えた影響は大きく、多くの中国人が当局の宣伝の影響を受け、「海が処理水で汚染される」ことを懸念し、すべての海産物をボイコットし始めているとのことです。

ネット上で出回っている情報によると、多くの海鮮市場には閑古鳥が鳴き、多くの海産物は売れず、廃棄の憂き目に。多くの漁師は前途多難な状況を自覚し、漁船を売却して転職する準備をしているそうです。

日本及び処理水の放出について理性的に討論する人々を侮辱的な言葉で罵倒していた、遼寧省のあるネットユーザーは「私たちは今、どうしたらいいかわからなくなった。家族は代々漁業で生計を立てており、町全体の産業はすべて海産物に関連している。漁船、沿岸養殖、牡蠣加工、海産物の仕入れなどを含むすべての産業が影響を受けており、町全体の人々は失業する恐れがある」とウェイボーに投稿しています。

また、上海メディアなどによると、先月29日夜、上海で旬の上海ガニを食べた家族が中国国内の処理水の報道を見て不安を覚え、ネットで購入した線量計で娘のお腹を測定したところ、基準値を超えたことを示すアラームが鳴ったと報じています。

家の中を線量計で測ったら、東京の976倍の放射線を計測したかと思えば、上海カニからも基準値超えの放射線です。上海ガニは淡水性で川や湖に生息する期間が長いとされていることを考えると、福島第一の処理水は殆ど関係ないと思われます。

中国メディアは市販の線量計で得られるデータは正確でない場合もあると指摘しつつ、「一般市民が線量計を購入する必要性は低い」と冷静になるよう呼び掛けていますけれども、嘘で国民を煽ったら、逆に自分達の暗部がバラされる。自滅という他ありません。


3.バカ騒ぎして自己表現したい中国の若者


中国やアジア地域のITやトレンドなどについて日本のIT系メディアを中心に執筆する、ライターの山谷剛史氏は、2012年以来、11年ぶりに反日の雰囲気が中国を駆け巡っているとして、中国メディアやSNSでは、処理水放出に反対する中国政府の意見に同調するような発信が続いていると述べています。

何でも、多くの現地中国人の間では「日本は有害な海洋放出をしている」という前提を共有した上で、「排出を仕方ないと思うか否か」「日本に抗議するか否か」を議論するという状況になっているそうなのですけれども、山谷氏は11年前とは前提が変わっていると指摘しています。

変っている前提とは何かというと、山谷氏は次の2点を挙げています。

・この11年で中国が強くなった。ご存知の通り経済力が上がり、それだけでなく日本でも中国製品の存在感が高まってきた。この11年で中国人観光客の爆買いがあり、中国製のスマートフォンやゲームが世界で台頭。さらに、中国のITやチャイナコスメなど、様々なジャンルで中国を過剰に褒める「中国スゴイブーム」が起こった。

・11年前と比べてEVも普及したため、それまで人気だった日本のガソリン車は投資価値がないと判断され、中国で売れなくなった。中国では、家電も自国のメーカーが席巻。ハイテク産業や車だけでなく、これまで安全でないと思われていた食品分野でさえも、「HEYTEA」などのティードリンクをはじめ、多くの「中国ブランド」が売れるようになった。

山谷氏は、今、中国では、自国の伝統的な文化と現代のトレンドを融合させる「国潮(グオチャオ)」と呼ばれるブームが起きていて、ベンチャー企業が資金を調達しては奇抜なデザインの商品を次々と出し、中国製や中国ブランドが特に若い世代から信頼されるようになっているのだそうです。それを背景に、今回の反日活動を行う若い世代は、自国のトレンドの流行り廃りを経て「他人とは違う自分でありたい」とオリジナル志向を示すようになった、と様々な調査結果で言われていると述べています。

とはいえ、それでも中国人にとって日本は無視できる存在になったとはいかないそうで、山谷氏は次のように述べています。
日本への旅行は身近になり、爆買いをするだけでなく、生の日本を感じるために来日する人が増えたのはご存知の通り。この10年で、日本のグルメドラマ「深夜食堂」や「孤独のグルメ」の中国版が製作されて人気を得たり、中国の大手ゲームメーカー・ネットイースが開発した、日本の平安時代を舞台にしたゲーム「陰陽師」も大ヒットして若者に支持されました。日本の様々なアニメが中国の小中高生のハートを掴んで、日本語も身近になりました。

「ガチ中華」の逆版ともいえるリアル日本料理志向も進み、焼き鳥と日本酒のバーが中国で人気になっています。

さらには日本料理や日本旅行ブームに乗っかって、日本のネオン街をそのまま中国国内につくり、ニセ江ノ電車両やニセ和歌山電鐵車両が置かれ、「映えスポット」として中国の若い世代に注目されています。日本らしいものに多くの若い世代が関心を持つようになったわけです。

そうした中国のブームを下支えしたのが、爆発的に普及したスマートフォンと、動画系を含むSNSです。中国のネットユーザーは、2012年末で5億6400万人だったのが、2022年末には10億6700万人まで増えました。しかも情報取得方法がパソコンからスマホに変わったことで、ユーザーは四六時中ネットの情報を見るようになり、「スマホはアヘンだ」と注意喚起が出たほどなのです。

昔に比べて圧倒的に情報が多くなり、バスや列車内も含めてテレビなどの公式情報を見るのではなく、スマホを使ってSNSで情報を得て、それを発信するようになりました。その代わりに、習近平体制下でさらにSNSの規制が強化され、前向きな中国情報ばかりが配信されるようになりました。

今回の福島第一原発のALPS処理水海洋放出の件でも、日本やIAEA(国際原子力機関)の情報や、ガイガーカウンター(放射線量計測器)を買って調べたら中国国内のほうが放射線量が高かった、といった情報をSNSに投稿したら、爆速で消されるように。中国で無数に雇われているネット検閲員は、近年にないブラック労働を強いられて、さぞかし大変ではないだろうかと推察します。
このように、中国の若者は、スマホを使ってSNSで情報を得て、それを発信するようになった反面、当局に都合の悪い情報は爆速で消されるイタチこっごが発生しているというのですね。

山谷氏は、「迷惑電話をはじめとする今回のアクションを起こした20代は、まだ結婚や子育てをしておらず、養育費やローンを抱えていません。それより上の世代のアクションがほとんどないあたり、若気の至りでやっているように思えてなりません。中国でも20代は夢見る世代で、30代以上になると落ち着くものです。活動に加わった若者も30代や40代になれば、今回のような行動は取らなくなるでしょう」と述べていますけれども、これが本当なのであれば、彼らは当局の宣伝に洗脳され、操られているというよりは、祭りのノリ的なバカ騒ぎをして自己表現をしていると見ることも出来るのかもしれません。


4.お気持ち批判は続かない


ただ、今回の反日キャンペーンも中国国内的には下火に向かっているという指摘もあります。

当初は、中国の短文投稿サイト、微博(ウェイボ)では、東京電力福島第1原発処理水を巡る投稿が検索ランキングの上位に並ぶ日が続いていたのが、8月31日にはランキングからほとんどが姿を消したのだそうです。微博のランキングの60位内から処理水の話題はほとんどなくなっています。

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は8月30日の社説で「中国社会を憤慨させているのは強引に放出した身勝手な行動で、日本国民ではない」と訴え、同じくこの日、政府系の経済紙も中国人が経営する日本料理店へのボイコットや水産物の不買運動を控えるよう呼びかけています。

これだけみると、当局が反日キャンペーンを抑え込みに掛かったように見えるのですけれども、評論家の石平氏は、最初から盛り上がってないと述べています。

石平氏は、盛り上がらない理由について「中国政府が福島処理水放出を批判する言い分に無理があり過ぎ、それに中国の若者の薄々気づいてきていること」と「処理水放出について、日本並びに周辺国、太平洋を囲んでいる国々が、全然反対しているどうして日本の処理水排出に反対していないこと」の2点を挙げています。

石平氏は、これらの理由から、中国人は既に処理水に興味関心を失っており、微博(ウェイボ)の検索ランキングに日本の処理水の件が全然出てこないことをその理由に挙げています。



在日ウクライナ人でインフルエンサーのナザレンコ・アンドリー氏は、「「何で日本政府やIAEAの言い分を鵜呑みにできるか!簡単に信じるな」等、科学問題を信仰問題に置き換えるお気持ち主義者の質が低すぎが、敢えて政治の観点から答えると…具体的な数値を出している以上、第三者が反証を簡単にできる。🇯🇵国内外、現政権打倒を夢見る勢力だらけ。嘘付けば政治的自滅。日本の処理水は環境に有害である証拠を得ることできれば、中国はそれを公表しないと思う?日本学術会議等の野党寄り組織が黙ってると思う?んなわけない。誰もが海水調査できる海について嘘付いたら、即にバレる。そして言い訳もできぬ。結局、IAEAの結論が正しいから、無根拠な感情に訴えるしかないのだ」とツイートしていますけれども、その通りです。

科学的根拠、しかもIAEAという国際組織が問題ないとしているものに対して、批判をしようとしても、それは無理筋というものです。

客観的根拠なしに、感情に訴えるだけでは、一時の共感を得ることは出来ても、それを続けさせることは難しいですし、第三者を焚きつけることはなお難しい。

ネットでは、どこぞの学者だか一般人だかが、コップにいれた色付きの水をバスタブに入れて、色が変わったから危ないなんて、投稿をしているようですけれども、他のユーザーから、「コップのサイズはこのままで、風呂のサイズを琵琶湖の3倍にすると、サイズ感的にはフクイチの処理水放出の状況に近くなる」と思いっ切り突っ込まれていたりしています。

逆に、中国国内で、室内や蟹を線量計で測ったら基準値以上のものが出てきた。こちらは生データです。風呂釜に色水を入れるのとは訳が違います。これが中国国内でバンバン拡散される事態になった。いくら中国当局や中国メディアが「冷静になれ」とか「測定値は正確でないときがある」といったところで、彼らはIAEAでも何でもありません。彼らがいくら声を大にしたところで、専門組織の裏付けがないのですから、科学的に否定もできません。せいぜい、「それはデマだ」とかいってレッテル張りするか、都合の悪い情報を「爆速」で消していくしかありません。

人民がついてこない中での反日キャンペーンが果たしてどこまで効果があるのか。少なくとも、人民レベルでの嫌がらせは鎮火していくのではないかと思いますね。



があり過ぎます。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント