グローバルサウスに擦り寄る岸田総理と近づくプーチンの世界構想

今日はこの話題です。
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1.グローバルサウスとの連携強化に動き出す岸田政権


5月5日、フランスと南米を歴訪した岸田総理は、訪問先のブラジルのサンパウロで会見しました。

岸田総理は5月1~6日の日程でフランス、ブラジル、パラグアイを訪問。総理就任後初となるブラジル、パラグアイへの訪問では両国首脳と会談して連携強化を確認。ブラジルでは日本の総理として10年ぶりに対中南米政策スピーチを行っています。

スピーチはこちらに公開されていますけれども、岸田総理は国際社会の分断と対立が深まる中、世界を協調へ導くために日本と中南米の連携がかつてなく重要となっていること、そしてそのための具体的な方向性について発信しています。

岸田総理はこの日の会見で、「グローバルサウスとの連携という観点から大変有意義だった」と国際社会で存在感を高める「グローバルサウス」諸国との連携強化を外遊の成果として強調しました。


2.無視できない存在になったグローバルサウス


なぜ、このタイミングで岸田総理は「グローバルサウス」との連携強化に踏み出したのか。

これについて、4月19日、日経ASIAは、「日本の岸田氏、グローバル・サウスへの序曲でブラジル、パラグアイを訪問 ~首相は中国とロシアの影響力に対抗するため、経済関係の構築に注力した」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・日本の岸田文雄首相は5月初旬にブラジルとパラグアイを訪問し、南米諸国との経済関係を強化し、この地域を説得しようとする中国とロシアの努力に対抗することを目指す。
・岸田氏は今月ワシントンを公式訪問した際、日本はルールに基づく国際秩序を守る責任を米国と共有する用意があると示唆し、グローバル・サウスの新興国や発展途上国への働きかけもその一環だ。
・岸田氏の南米訪問は、2021年の就任以来初となる。安倍晋三元首相は2016年にブラジル、2018年にパラグアイを訪問している。
・岸田氏の訪問には経済界のリーダーらも同行し、経済協力の強化に重点を置く予定だ。日本政府は、バイオエタノールやその他の脱炭素技術、また重要な鉱物に関して新たな提携を確保することを目指している。
・南米の多くの国々は中国と強い経済的つながりを持っています。ブラジルは輸出入ともに中国を最大のパートナーとみなしている。日本は、これらの国々に経済・サプライチェーンの中国への依存を減らすよう促す官民の取り組みを進めている。
・ブラジルはグローバル・サウスの主要な発言者であり、ロシア、インド、中国、南アフリカとともにBRICSグループの一部です。今年のG20サミットの議長国も務める。
・岸田首相はブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダシルバ大統領と会談し、ルールに基づく国際秩序の維持・強化の重要性を確認する。
・同氏はまた、サンパウロで日本のラテンアメリカ政策について演説し、日系ブラジル人コミュニティに向けて両国の歴史的なつながりを強調する予定だ。日本の外務省の報告によると、ブラジルには約270万人の日系人が住んでいる。
・パラグアイは、中国本土を越えて台湾と外交関係を維持している唯一の南米の国である。現在は地域関税同盟メルコスールの輪番議長国を務めている。
・日本の首脳としては2人目の訪日となる岸田氏は、日本とパラグアイの共通の価値観を強調する予定だ。
・岸田氏は南米訪問に先立ち、5月2日にフランスで日本が議長を務める経済協力開発機構の閣僚会合に出席する。
・日本が最後に議長国を務めた2014年、OECDはASEANとの新たな政策対話を設置した。この枠組みは、東南アジア諸国の加盟国が、その多くがヨーロッパやアメリカの先進国であるOECD加盟国と同じ規則や国際基準に参加するよう奨励するために利用されてきた。
・岸田氏は今回、世界経済、生成型人工知能、気候変動などに関する新たな国際ルールを提唱する。同氏は、自由なデータの流れと質の高いインフラ開発を念頭に、西側諸国とASEAN間の協力強化を促すとしている。
・インドネシアはOECD への加盟を目指しています。日本は、米国や欧州のインド太平洋への関与強化を促す枠組みに、より多くの東南アジア諸国を参加させることを目指している。
・2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来、世界的な亀裂は深まるばかりで、主要7カ国(G7)や中国、ロシアといった国々は新興国や発展途上国に対する影響力を巡って競い合っている。
・日本は昨年広島でG7サミットを主催して以来、グローバル・サウスへの外交努力をさらに注力しており、そこではインドネシアやブラジルなどの国々の首脳を拡大会合に招待した。
・岸田氏はまた、エネルギーやインフラなどの分野で他国との共通の利益を特定し、二国間関係を強化することを目的とした、同氏が「新時代の現実主義外交」と呼ぶものを推進している。
このように、日経アジアは、中国とロシアの影響力に対抗するためにグローバルサウスに接近しているのだ、と述べています。

けれども、去年3月にG20サミットがインドで行われたのですけれども、当時の林外相はこれを欠席しています。インドは2022年12月、翌年のG20議長国であることを受け、モディ首相が現地有力誌に「インドのG20アジェンダは、包括的で野心的、行動志向で断固としたものになる」という論説を寄稿しています。

その論考は「我々G20の優先事項は、G20加盟国とだけでなく、しばしばその声が無視されてきた”南半球の仲間たち”との協議をして決める」というもので、”南半球の仲間たち”とはいうまでもなく、グローバルサウスのことを指しています。

岸田政権は、去年3月のG20を欠席しておきながら、ここにきて急にグローバルサウスに力を入れ出した。安倍元総理が2016年にブラジル、2018年にパラグアイを訪問していたことを考えると、岸田政権はグローバルサウスを相手にしていなかったといえます。それが今回、グローバルサウスに接近したということは、グローバルサウスが無視できない存在になったことを意味すると思います。


3.アメリカは覇権国の地位を失った


それどころか、もはやアメリカは世界覇権を失ったのだという見方もあります。

5月3日、欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策担当上級代表は、イギリスのオックスフォード大学で「2つの戦争に直面したヨーロッパ」というテーマの講演を行っています。

その冒頭部分を引用すると次の通りです。
親愛なるティモシー、オックスフォードにお招きいただきありがとうございます。セント・アントニーズで講演できることは、私にとって特別な名誉です。

このカレッジには以前何度か来たことがあります。先生方の何人かは存じ上げています。6年前にイェール(大学)でお会いしました。

ありがとう。ご清聴ありがとうございました。

このカレッジは、多くの優れた作家を輩出していますし、世界中の外務大臣も数多く輩出しています。

ですから、ダーレンドルフの講義を行うことは特別に光栄なことです。ラルフ・ダーレンドルフは、ドイツとイギリスの政治家であり、欧州委員であり、政治学者であり、開かれた社会の擁護者でもありました。

おっしゃるとおり、私は学者であろうと努めています。私は人生の一部分を大学で過ごし、もう一部分を政治に携わってきました。私は常に、思想の世界と政治の世界を結びつけることに強い関心を持ってきました。考える人と行動する人です。

だから私はとても幸せなのです。この争いの絶えない困難な世界で何が起きているのか、深く考えている人たちとのこのようなひとときを楽しんでいます。あなた方は私よりも考える時間があるでしょうから、私たちの決断を鼓舞してほしいのです。そして、この言葉の後に、皆さんと意見を交換する機会があることを願っています。

えぇ、私は外交・安全保障(政策)上級代表です。この特権的な立場から、私は世界を眺める絶好の機会を持っています。何が見えるでしょうか?

対立が増え、協力が減っています。ここ数年、この傾向はますます強まっています。

世界はより分断されている。ルールが守られない世界が見えます。

極が増え、多国間主義が減っています。

依存関係が武器になります。

冷戦後に慣れ親しんだ国際システムはもはや存在しません。アメリカは覇権国の地位を失いました。そして、1945年以降の世界秩序も失いつつあります。

私は、ご存知のように、中国が超大国の地位を確立しつつあると見ています。中国が過去40年間に成し遂げたことは、人類の歴史上、類を見ないことです。この30年間で、世界のGDPに占める中国の割合は、購買力平価で6%から20%近くまで上昇しました。これは経済状況の劇的な変化です。

中国は我々やアメリカにとってライバルになりつつあります。安価な商品の製造だけでなく、軍事大国として、技術開発の最前線に立ち、私たちの未来を形作る技術を構築しています。中国はロシアと「限界のない友好関係」を結んでいますが、すべての友好関係には限界があります。

私は、世界はより多極化していると言いました。

同時に、インド、ブラジル、サウジアラビア、南アフリカ、トルコなどの中堅国が台頭してきています。彼らは重要なアクターになりつつあります。BRICSであろうとなかろうと、世界における地位と発言力を高め、自国の発展により大きな利益を得たいという願望を除けば、彼らに共通する特徴はほとんどありません。

これを達成するために、彼らは自らの自主性を最大限に発揮し、どちらかの味方をすることを望まず、その場その時、その問題によってどちらかの味方をします。彼らは陣営を選びたがらないし、私たちも彼らに陣営を選ぶよう押し付けてはなりません。

【以下略】
講演でボレル氏は「アメリカは覇権国の地位を失い、1945年以降の世界秩序も失いつつある」とし、中国が超大国となり、インド、ブラジル、サウジアラビア、南アフリカ、トルコなどの中堅国が台頭、世界は多極化している、と指摘しています。

2022年9月12日のエントリー「東方経済フォーラムのプーチン演説」で取り上げましたけれども、この年の9月7日、ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでプーチン大統領は、「多極世界への道:On the Path to a Multipolar World」というテーマでの演説を行い、西側諸国の影響力がおち、世界が多極化することを示唆していましたけれども、とうとうEUのボレル外務担当上級代表もそれを認めました。


4.近づくプーチンの世界構想


5月3日、ニュース分析サイト「TrimFeed」はEUのボレル氏の講演について「約束違反と二重基準を理由に、西側諸国が国際的信頼を失ったと批判している」とする記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・EU外交政策責任者のジョゼップ・ボレル氏はオックスフォードでの率直な演説で、米国は世界における議論の余地のない覇権的地位を失ったと宣言した。欧州連合外交安全保障政策上級代表も務めるボレル氏は、冷戦後の国際秩序はもはや通用しないと強調した。

・これが重要な理由:各国が新たな多極化世界秩序に適応するにつれて、世界的な力関係の変化は国際関係、貿易、安全保障に重大な影響を及ぼす。米国と中国が影響力を求めて争う中、両国の対立の影響は経済政策から紛争解決に至るまで世界中に及ぶだろう。

・ボレル氏は、変化する世界情勢についての評価に一切のパンチを加えず、次のように述べた。「紛争が増え、協力が減少している。両極性が高まり、多国間主義が減少している。冷戦後、我々が慣れ親しんでいた国際システムはもはや存在しない。過去10年間、アメリカは議論の余地のない覇権的地位を失った」

・ EU外交政策責任者は、中国の台頭がこの地政学的な変革の重要な要因であると強調した。「中国は超大国の地位にまで上り詰め、製造業だけでなく軍事力や未来を形作る技術の構築でも米国や欧州に匹敵する」とボレル氏は述べた。

・ボレル氏は、世界の二極化が進むにつれて、1945年以降の多国間秩序が地盤を失いつつあると指摘した。同氏はまた、インド、ブラジル、サウジアラビア、南アフリカ、トルコなどの平均的な大国が、世界舞台でより大きな地位と影響力を求める主要プレーヤーとして台頭していることを指摘した。

・EU外交政策責任者は、主要な国際問題に取り組む際の数々の戦争、約束違反、二重基準を挙げて、西側諸国が国際的信頼を失っていると批判した。同氏は、イラク戦争とガザの現状に言及し、ヨーロッパが国連憲章に謳われている価値観と原則の尊重を示す必要性を強調した。

・ボレル氏は、ロシアに対する強固な姿勢への支持を繰り返しながら、国際法の適用における一貫性の重要性も強調した。同氏は、そのような一貫性が必要な例として、イスラエルの和解と国連安全保障理事会決議の違反に具体的に言及した。

・ボレル氏の率直な発言は、欧州委員会の構成変更が予定されている欧州選挙を前に行われた。彼の発言は、今後の選挙を考慮すると、より誠実で外交的な警戒感がないと見なされ、国際政治のバランスの大きな変化を反映している。中国の力と影響力が拡大し続け、米国の優位性に挑戦するにつれ、EUはますます複雑化、多極化する世界秩序を自ら舵取りすることになっている。

【以下略】
この記事で「西側諸国は、約束違反と二重基準をしたことで国際的信頼を失った」と批判していますけれども、先述したボレル氏の演説でそれに該当すると思われる部分を次に引用します。
今、私たちには2つの戦争がある。私たちヨーロッパ人は、世界の厳しさに対して準備ができていない。

しかし、イヴァン(・クラステフ)が指摘したように、目を覚ますこと、そしてもうひとつはベッドから出ることだ。場合によっては、まだベッドの中にいることもある。目覚めは明確だが、その瞬間の重大さを理解しているだろうか? 私は疑問に思っている。この機会に、私たちは地政学的、経済的、社会的な脅威に直面しているのだから、今が重大かつ緊急な瞬間であるというメッセージを送りたい。地政学的、経済的、技術的、そして民主主義的な脅威なのだ。

欧州、欧州連合、そして欧州連合以上に、欧州人の生き方、政治的自由、経済的繁栄、社会的結束という人類が発明し得なかった最高の組み合わせが、確実に危機に瀕している。そして、このような難題に立ち向かうためには、3つの次元で取り組まなければならないと思う:「 原則」、「協力」、そして「力」である。

まずは原則から。原則は重要だ。なぜなら、EUは価値観の連合体だからだ。私たちの条約にもそのように記されている。私たちは価値観の連合体であり、その価値観は条約に列挙されている。これらの原則に反対することは困難だ。

そして、国際連合憲章に謳われている原則がある。私たちヨーロッパ人は、半世紀の間に一度ならず二度までも世界を火の海にした。

最も単純な言葉で言えば、これらの原則は「いかなる国家の領土保全や政治的独立に対する武力行使」を禁止している。

そして、戦争の戦い方を規制し、民間人の保護を守ろうとする国際人道法がある。これらの原則は、世界中で見られる武力行使の常態化に対する最善の安全策となるはずだ。

しかし、その原則の周りに世界を結集させるためには、私たち欧州人が常にどこでもその原則を尊重していることを示す必要があることは分かっている。私たちはそれを実践しているのだろうか? まあ、私たちがすべきことまではしていない。ヨーロッパにとってこれは問題だ。

どこに行っても、二重基準という非難に直面する。私はよく大使たちに、外交とはダブルスタンダードを管理する技術だと言っていた。確かに難しいことではあるが、ダブルスタンダードを管理することなのだ。

しかし、事実として、世界中の人々はイラク戦争を忘れてはいない。参加しなかったEU加盟国があったとしても、熱心に参加した国もあれば、すぐに撤退した国もある。これは、私が最もよく知っている国のケースだ。

今、ガザで起きていることは、多くの人々が理解できないような形でヨーロッパを描いている。彼らは、ウクライナ支援における私たちの迅速な関与と決断力を見て、パレスチナで起きていることへの私たちのアプローチの仕方を疑問に思っている。

そう、EUの意思決定プロセスの仕組みを説明することはできる。加盟国の歴史的な経験の違いを説明することもできる。国連総会では、18ヶ国が一方に投票し、2ヶ国が他方に投票した。

しかし、ウクライナの市民の命の価値は、3万4000人以上が死亡し、そのほとんどが避難民となり、子どもたちが飢えに苦しみ、人道支援が妨害されているガザとは同じではないという認識だ。

また、イスラエルが入植地に関して犯しているように、国連安保理決議が破られたとしても、ロシアが犯した場合とは対照的に、私たちはさほど気にしていないという認識もある。

たしかに、第二次世界大戦後に我々が打ち出した原則は平和の柱である。しかし、そのためには私たちの言葉に一貫性がなければならない。ある場所で何かを 「戦争犯罪 」と呼ぶなら、他の場所でも同じように呼ぶ必要がある。

ハマスが残虐な攻撃によって新たな暴力の連鎖を引き起こしたことは、私たち全員が同意している。しかし、ガザで[その後]6カ月間に起こったことは、別の恐怖だ。そして、ひとつの恐怖が別の恐怖を正当化することはできない。

世界中で、特にアメリカでの熱心な議論や多くのデモが示しているように、私たちの社会がますます感じていることなのだ。

【以下略】
やはり、ウクライナに対する態度とガザ・イスラエルに対する態度の違いが、ダブルスタンダードであることが明らかになったがゆえに信頼を失ったというのですね。その意味では、イスラエルの「暴走」が世界の欺瞞を明らかにし、アメリカの覇権を終わらせ、世界を多極化に向かわせていると言えるのかもしれません。

筆者は、ロシアのウクライナ侵攻直後の2022年03月12日のエントリー「プーチンの世界構想と相手にならないバイデン」で、プーチン大統領は、BRICSと結んで、東側経済圏の確立を狙っているとし、ドル覇権に挑戦しているのではないかと述べたことがありますけれども、あれから2年経って、世界は段々とその方向に進んでいるように見えます。

ボレル氏が指摘するように、アメリカが世界覇権国の地位を本当に失ったのだとすれば、ドルの世界覇権とて崩れないとも限りません。日本のマスコミは円安だなんだと騒いでいますけれども、近い将来、ドル覇権が崩れ、今とは逆の超円高の世界が来るかもしれませんね。



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