戦争を止めたい人達と続けたい人達

今日はこの話題です。
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1.EUCO10/25


3月6日、欧州連合(EU)は特別首脳会議を開き、ウクライナへの支援を表明する宣言を採択しました。

首脳会議では、ウクライナへの揺るぎない支持を約束するとともに、和平実現に向けた交渉の原則をまとめたものの、ハンガリーのオルバン首相が署名を拒否したため、全会一致とはならず、27加盟国中26カ国での採択となっています。

採択文書はこちらですけれども、全10項目のうちウクライナについては最初の3項目だけで、その内容は次の通りです。
I. ウクライナ
1. 欧州理事会はウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と意見交換を行った。
2. 欧州理事会はウクライナに関する最新の情勢について討議した。文書EUCO 10/25に記載された文章は、26カ国の首脳により強固に支持された。
3. 欧州理事会は次回の会合でこの問題を討議する。
結局決まったのは「文書EUCO 10/25」の支持確認と次回また討議することだけ。

そして、「文書EUCO 10/25」の内容は次の通りです。
1. 欧州理事会は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と意見交換を行った。

2. 欧州連合は、ロシアの全面侵略戦争に対してウクライナが固有の自衛権を行使するにあたり、当初からウクライナを支持してきたし、今後もウクライナとその国民を支持し続ける。欧州理事会は、国際的に承認された国境内でのウクライナの独立、主権、領土保全に対する継続的かつ揺るぎない支持を再確認する。

3. ロシアによるウクライナ侵略戦争は、欧州と国際の安全保障に幅広い影響を及ぼす。戦争が始まって以来、欧州連合とその加盟国は、パートナーや同盟国とともに、国連憲章と国際法の原則に基づく包括的、公正かつ永続的な平和を通じて戦争を終わらせる必要性を強調してきた。欧州理事会は、そのような平和の実現に向けたあらゆる努力を歓迎する。

4. 包括的、公正かつ永続的な平和につながる交渉に向けた新たな勢いに鑑み、欧州理事会は以下の原則の重要性を強調する。

a) ウクライナ抜きでウクライナに関する交渉はあり得ない。

b) ヨーロッパの関与なしにヨーロッパの安全保障に影響を与える交渉はあり得ない。ウクライナ、ヨーロッパ、大西洋横断、そして世界の安全保障は絡み合っている。

c) いかなる停戦も包括的和平合意に至る過程の一環としてのみ行われるべきである。

d) いかなる合意も、将来のロシアの侵略を抑止することに貢献する、ウクライナに対する強力かつ信頼できる安全保障の保証を伴う必要がある。

e) 平和はウクライナの独立、主権、領土保全を尊重しなければならない。

5. 「力による平和」を達成するには、ウクライナが可能な限り最強の立場に立つことが必要であり、ウクライナ自身の強固な軍事力と防衛力が不可欠な要素となる。これは戦争終結に向けた交渉の前、最中、そして後にも当てはまる。この目的のため、欧州連合は、志を同じくするパートナーや同盟国と連携し、ウクライナとその国民に対する政治的、財政的、経済的、人道的、軍事的、外交的支援を強化し、ロシアが侵略戦争を継続する能力を弱めるために、追加制裁や既存措置の執行強化などを通じてロシアへの圧力を強化することに引き続き尽力する。

6. 欧州連合は、ウクライナに対して定期的かつ予測可能な財政支援を継続する。2025年には、ウクライナに306億ユーロを供与する。ウクライナ・ファシリティからの支出は125億ユーロに達する見込みで、G7 ERAイニシアチブに基づく181億ユーロは、ロシアの固定資産から生じる臨時利益で返済される。欧州理事会は、欧州委員会に対し、上記の手段による資金調達を前倒しするために必要なすべての措置を速やかに講じるよう求める。また、欧州委員会と加盟国に対し、ウクライナへの財政支援を増額するために、ウクライナ・ファシリティのあらゆる選択肢を活用するよう求める。

7. 欧州理事会は、ウクライナへの軍事支援の提供に関する作業を検討した。今年すでにウクライナに約束されている資金に加え、理事会は、加盟国がウクライナの差し迫った軍事・防衛ニーズ、特に防空システム、弾薬、ミサイルの提供、ウクライナ旅団への必要な訓練と装備の提供、およびウクライナが抱える可能性のあるその他のニーズに対処するための努力を緊急に強化する用意があることを歓迎する。理事会は、この点で、ウクライナを支援する欧州連合軍事支援ミッション(EUMAMウクライナ)の重要な役割を強調する。欧州理事会は、G7 ERAイニシアチブの軍事ニーズ要素を含む、ウクライナへのEU軍事支援の強化を調整するためのイニシアチブ、特に上級代表のイニシアチブに関する作業を理事会が迅速に進めるよう求める。

8. ウクライナが効果的に自国を防衛できることは、将来の安全保障の不可欠な要素である。この文脈において、欧州連合と加盟国は、ウクライナ軍の訓練と装備に貢献し、ウクライナの防衛産業をさらに支援・発展させ、欧州の防衛産業との協力を深めるための取り組みを強化することに尽力している。

9. 包括的、公正かつ永続的な平和に向けた交渉を踏まえ、欧州連合と加盟国は、共通安全保障防衛政策(CSDP)手段の活用の可能性を模索するなど、国際法に則り、それぞれの権限と能力に基づき、安全保障の確保にさらに貢献する用意がある。安全保障の確保は、ウクライナとともに、また、志を同じくする国々やNATOのパートナーとともに行うべきである。

10. 欧州理事会は、ウクライナに対するあらゆる軍事支援と安全保障の保証は、特定の加盟国の安全保障・防衛政策を全面的に尊重し、すべての加盟国の安全保障・防衛上の利益を考慮して提供されることを想起する。

11. 欧州理事会は、国連憲章と国際法に基づき、ウクライナが自らの運命を選択する固有の権利を有することを強調する。欧州連合は、EU加盟に向けたウクライナの改革努力に対する支援を強化する。

12. 欧州理事会は、欧州委員会、スロバキア、ウクライナに対し、スロバキアが提起した懸念を考慮しつつ、ガス輸送問題に対する実行可能な解決策を見つけるための努力を強化するよう要請する。

13. 欧州理事会は次回会合でこの問題に立ち戻る予定である。
内容を一言でいえば、「EUはウクライナを支持する。和平交渉にはウクライナとEUも参加させろ」というものです。


2.なぜこの戦争に勝てると考えているのか知りたい


ただ、この宣言はハンガリーの反対で、全会一致となりませんでしたから、厳密にいえば、EUの総意とはいえず、実際、ハンガリーを除く26カ国で独立した文書を採択した形となっています。

7日、そのハンガリーのオルバン首相は、国営ラジオで、欧州は戦争を長引かせるのではなく、トランプ米大統領の和平交渉を支持すべきだと述べ、EUがウクライナを支援し防衛費を増額することは「欧州を破滅させる」と主張しています。

また、もしアメリカがウクライナへの資金援助を停止した場合、EUに戦争を終わらせるチャンスがあるのかと疑問を投げかけ、今回の首脳会議で拒否権を発動したものの、EUの他の加盟国は数週間以内に再びこの問題を提起し、ウクライナを支援する資金がないという結論に至るだろうとの見通しを述べています。

オルバン首相は、3月5日にフランスのマクロン大統領と会談していますけれども、会談に向かう途中、記者に対し「フランスと戦争支持の姿勢がなぜ理に適っているのか答えを聞きたい」と述べ、会談で何を期待するかと問われると「アメリカは以前は戦争の側にいたが、今は平和の側に立っているという根本的な変化だ……アメリカが戦争推進派だった3年間、交戦国はロシアを倒すこともウクライナの勝利を助けることもできなかったのに、アメリカが不在で戦争推進派がかなり弱体化した今、なぜこの戦争に勝てると考えているのか知りたい」と述べています。

もっともな指摘だと思います。


3.停戦と納得


3月7日、アメリカのトランプ大統領は大統領執務室で、ウクライナでの和平交渉をめぐって次のように発言しています。
記者:
プーチンはウクライナを爆撃している。彼が平和を望んでいるとあなたはまだ信じますか?

トランプ大統領:
私は彼を信じている。ロシアとの関係は非常に良好だ。しかし今、彼らはウクライナを徹底的に爆撃している。正直に言うと、ウクライナとの交渉はますます難しくなってきている。それに彼らはカードを持っていない。

最終決着に至るうえでは、ロシアの方が交渉しやすいかもしれない。意外なようだが、彼らはあらゆるカードを持っているからだ。

実のところ、プーチン氏がやっているのは他の誰でもやることだと思う……彼は戦争を停戦に持ち込み、決着を図りたいのだと思う……プーチン氏の立場なら誰でも、現状同じことをしているだろう。彼は戦争を終わらせたいのだ。
大統領執務室にはウォルツ補佐官も同席していて、ウォルツ氏は次のように述べています。
ウォルツ氏:
大統領は、戦闘を止めなければならないと、すべての側に対して明確に伝えてきました。双方が交渉のテーブルに着く必要があります。我々は良い交渉ができました。両首脳は、トランプ大統領だけがそうできると言いました。ウクライナは鉱物資源協定を通じて両国の経済を結びつける絶好の機会を得ました。残念ながら、それはうまくいきませんでしたが、私たちは物事を軌道に戻すことができると考えています。ルビオ氏、私、そしてウクライナ代表団は来週サウジアラビアで会談し、協議を再開し、停戦を実現し、平和を推進する予定です。
ウォルツ補佐官は、ウクライナとサウジアラビアで会談することを明かしていますけれども、トランプ大統領は和平交渉について、まずは停戦が先で、後のことはそのあとで話せばよいというスタンスであることが分かります。

これに対し、EU、あるいはウクライナ側は、冒頭で取り上げたウクライナ支援宣言にもあるように、双方納得できて初めて停戦するというスタンスです。

けれども、このEU・ウクライナのスタンスは、こんな案では納得できない、とゴネさえすれば、いくらでも引き延ばし出来る訳で、いつまでたっても戦争は終わらないことになります。

取り沙汰されているウクライナとの鉱物資源協定にしても、ウクライナ最大級のリチウム鉱床の一つであるシェフチェンコ鉱床は、現在ロシアが支配しているドネツク州に位置し、商業採掘が可能な深度に鉱床があるとされています。

もし、鉱物資源協定が結ばれ、アメリカ企業がこの地域の開発、あるいはロシアとの共同開発ともなれば、この地域が丸々緩衝地帯になります。

もし、ロシアがこの地域を攻撃してアメリカ企業に被害がでたら、それはアメリカへの敵対行為となるからです。要するにロシアはそこから先へは進軍できなくなるということです。




4.制裁と滞留取消


更にトランプ大統領は手を打っています。

3月7日、トランプ大統領はSNSに「ロシアは今まさに戦場でウクライナを『圧倒』している。停戦と平和に関する最終的な和平合意が成立するまで、ロシアに対する大規模な金融制裁や関税を強く検討している……手遅れになる前に、今すぐ交渉のテーブルに着け」と投稿しました。

もっとも、アメリカは既にロシアからの輸入を大幅に減らしていて、関税引き上げをしても、余り効き目はないのではないかという見方もあります。

その意味ではより外交メッセージの意味合いが強いとみて良いかと思います。

一方、ウクライナに対しても、ロイター通信が6日、アメリカ政府が4月中に約24万人のウクライナ人に対する臨時滞留許可を取り消す計画をしていると伝えています。

ロイターによると、今回の措置は、2月28日のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談前から計画されていたとのことですけれども、このタイミングでの発表を考えると、こちらも外交メッセージの一つだと思います。

戦争から逃げてきた人をまた送り返すということは、戦争を止めよというメッセージであることはいうまでもありません。あるいは、戦争が終わった後の姿をウクライナのみならず世界中にイメージさせることで、停戦圧力として使うという狙いさえあるのかもしれません。

もっといえば、ウクライナに戻った彼らが、ゼレンスキー大統領を支持するとは思えず、仮にウクライナで大統領選が行われるときをも考え、ゼレンスキー大統領が再び大統領になることがないようにするための仕込みも入っているのかもしれません。

繰り返しになりますけれども、ウクライナを巡る和平交渉は、停戦最優先のトランプ大統領と、戦争を続けさせることで何らかの見返りを得ようとしている人々との綱引きの最中にあるという見方も出来るかと思いますね。



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