カナダとの貿易交渉終了を表明したトランプと報復税

今日はこの話題です。
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1.多くの国々がプレッシャーを感じていると思う


6月27~28日、赤澤経済再生担当相は、約1時間、アメリカ商務省でラトニック商務長官と閣僚交渉を行いました。

両氏は、アメリカの関税措置に関するそれぞれの立場を改めて確認し、貿易の拡大や非関税措置、経済安全保障面での協力などについて議論を行ったのですけれども、互いの立場を確認した上で双方にとって利益となる合意を実現できるよう、精力的に調整を続けることで一致したと報じられています。

交渉を続けると言えば聞こえはいいかもしれませんけれども、要は何も進展しなかったということです。

また、経済安全保障面での協力について議論したということですから、先日来話題になっているフェンタニル問題についても議題に挙がったであろうと思われます。

一時停止されている相互関税の期限が7月9日と目前に迫る中で、この調子では、期限までに合意する可能性は低いのではないかと思います。

そんな中、アメリカ側は、9月1日までに多くの国と関税交渉まとめるという認識を示しています。

6月27日、FOXビジネスネットワークのインタビューに応じたベッセント財務長官は、各国との関税交渉についてベッセント財務長官は、一時停止措置の期限が7月9日に迫っていることに触れ、「多くの国々がプレッシャーを感じていると思う……非常にいい取り引きを持ちかけてきている国もある」と述べ、18の重要な貿易相手のうち、10から12の相手と合意できるという考えを示しました。

そして、ベッセント長官は、これらの相手と合意できれば、このほかの密接な貿易関係がある、20か国とも、9月1日までに交渉をまとめることができるという認識を示しています。

また、各国との交渉をめぐっては、ラトニック商務長官も10の貿易相手と合意が近いという考えを示しています。

更に、トランプ大統領は、27日の記者会見でおよそ200の国と地域、すべてに対応することは難しいという考えを示した上で、規模の大きいインドなどを除く多くの国などに対し「今後1週間半ほどの間に書簡を送る。非常に迅速に進むだろう」と述べ、アメリカ側から合意の条件などを通知する書簡を送る方針を明らかにしていますけれども、この書簡の送り先には日本は入っているとは思えません。


2.報復税


関税交渉と並行して、アメリカは次の手を進めています。いわゆる「報復税」です。

現在、アメリカ議会では、トランプ大統領が導入した所得税減税の延長などを盛り込んだ包括的な税制・歳出法案「One Big Beautiful Bill Act」が審議されているのですけれども、この中に内国歳入法「第899条項(案)」が入っています。報道機関などで「報復税」と呼ばれているのがこの条項です。

この条項は、アメリカが差別的とみなした国の政府および企業、個人の所得に対して、制裁として追加的に課税ができるようにするものです。具体的には、利子や配当、米国事業に関連する所得、不動産の譲渡に伴う所得、米国支店の利益を本国に送金するなどの所得が対象となっています。

例えば、外国企業が米国に拠点を持つ場合、米国での所得に対して課せられる通常の法人税率は、初年度に5%引き上げられたあと、毎年5%ずつ加算され、最大20%(下院案)まで上乗せされます。

また、アメリカに拠点のない法人や個人の場合には、米国投資から得られる利子や配当に対する税率が、毎年5%ずつ引き上げられます。ここで上乗せされる税率は、アメリカとの間で租税条約が締結されている場合、軽減後の税率が引き上げの出発点となります。

日米租税条約が締結されている日本の場合は、現状、個人の配当には10%、利子には0%の軽減税率が適用されているところに、第899条が適用されると、最大20%の税率が上乗せ。配当は最大30%、利子は最大20%の税率が課されることになります。

さらに、外国企業が多国籍企業の場合、税源浸食濫用防止(BEAT)税の強化も影響してくることになります。

BEATは、米国法人が国外関連者に対して支払った利子や使用料などに対して、一定の計算に基づき追加的な課税を行う仕組みなのですけれども、第899条項(下院案)では、この適用範囲を仕入れに係る支払いにも広げ、適用対象も現在の規模要件である「米国法人の過去3年間の年間平均総収入が5億ドル以上」だけでなく、外国企業が50%超を所有する米国法人にも拡大し、所有構造に関する規定も追加するとしています。

この第899条項の適用対象は「不公正な外国税」をアメリカに課している国であり、財務長官により最終決定されるとなっていますけれども、下院案では、不公正な外国税の例として、デジタル・サービス税(DST)や軽課税所得ルール(UTPR)、迂回利益税(DPT)などが挙げられています。

日本は令和7年度の税制改正で、軽課税所得ルールを法制化しているため、適用対象に認定される可能性は高いと見られています。

第899条項の適用開始時期については、「第899条項の成立から90日後」、「不公正な外国税が成立した日から180日後」、「不公正な外国税が適用された日」のいずれか遅い日が適用とされています。日本の場合、上述のUTPRが2026年4月1日以降に施行されることから、その時期が1つの焦点とされています。

この第899条項の発動で、「外国企業の税負担の増加」が予想されるのですけれども、経済産業省の海外事業活動基本調査によると、日本企業がアメリカに有する現地法人数は2147社。2023年度の当期純利益の実績は3.7兆円に上ります。ここに最大20%の税率が追加されることになれば、単純計算で0.7兆円の利益が失われることになります。

第899条項の発動は外国企業だけでなく、アメリカに対しても「資本のアメリカ離れ」や「米ドル資産の価値毀損と市場の混乱」といった影響も懸念されています。資産運用会社やベンチャーキャピタルなどは、こうした制度が金融市場に混乱を与えかねないと警告しています。

これらを考えると第899条項の発動は他国も自国も傷つける諸刃の剣だともいえ、今のところは、関税交渉など他国との交渉を有利に進めるためのカードとして使う目的の方が大きいような気がします。

けれども、肝心の第899条項ですけれども、トランプ政権内部からは法案の一部見直しの声も上がっています。

6月26日、ベッセント財務長官は、他のG7からアメリカ企業に国際最低課税を適用しないとの合意を取り付けたとして、与党共和党に対し、外国投資家への「報復課税」条項を法案から削除するよう要請しています。

この法案は、2025年5月22日に下院で可決されたのち、上院に送られているのですけれども、早期可決の見通しは立っていません。

トランプ大統領はホワイトハウスのイベントで、7月4日の独立記念日前に議会が法案を可決できそうかとの質問に「そう願っている」と答えていますけれども、上院共和党は、週末の採決に向けた税制・歳出法案を依然としてまとめ切れておらず、法案策定の先行きに不透明感が強まっています。


3.カナダとの貿易交渉終了を表明したトランプ


トランプ政権は、9月1日までに多くの国と関税交渉まとめるとしていることから、いずれ他の国の交渉が纏まるのではないかと思いきや、決裂しそうな国もあります。カナダです。

6月27日、ニューヨークタイムズは「トランプ大統領、カナダとの貿易交渉終了を表明」という記事を掲載しました。

件の記事の概要は次の通りです。
・トランプ大統領は金曜日、カナダが米国のテクノロジー大手からデジタルサービス税を徴収する計画をめぐり、米国は「即時」カナダとの貿易協議をすべて終了すると述べた。

・トランプ氏はこれらの税金を「露骨な攻撃」と呼び、ソーシャルメディア上で、今後7日以内にカナダに対し「米国とビジネスをするために支払うことになる」税金について通知すると約束した。

・トランプ氏は交渉を打ち切ったことで、伝統的にアメリカの最も緊密な同盟国であり最大の貿易相手国の一つであったカナダと米国間の緊張が高まっていた関係を再び覆した。

・カナダの新首相マーク・カーニー氏の就任後、両国関係は改善の兆しを見せていた。両国は今月初め、アルバータ州で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の傍らで長時間協議を重ね、7月に貿易協定を発表する見込みさえ見えていた。

・しかし金曜日、トランプ氏はカナダが再びペナルティボックスに戻ったことを示唆した。

・「我々は全てのカードを持っている。一枚残らず持っている」とトランプ氏は大統領執務室で述べ、「経済的に我々はカナダに対して大きな力を持っている」と付け加えた。

・カナダ当局は、カーニー総裁がトランプ大統領に電話を掛けるかどうか、あるいはデジタル税の徴収から手を引くかどうかについてのコメント要請には応じなかった。しかし、カーニー総裁の事務所は声明で、カナダ政府は「カナダの労働者と企業の最善の利益のために、米国との複雑な交渉を継続する」と述べた。

・トランプ大統領が北米の隣国に対する関税引き上げを実行に移せば、国境の両側で混乱が生じ、米国企業と消費者は輸入コスト上昇の矢面に立たされる可能性がある。交渉決裂を受け、金融市場は一時反発したが、S&P500は金曜日に持ち直し、最高値を更新した。

・カナダでは昨年から3%のデジタルサービス税が導入されているが、最初の納税は月曜日から始まる。この税は遡及適用されるため、大手米国テクノロジー企業の業界団体によると、米国企業はカナダ政府に約27億ドルを納める準備をしているという。

・米国の与野党両党の当局者は、カナダが課したような課税に長年不満を抱いており、グーグル、アップル、アマゾンといった米国企業が提供するサービスを不当に標的にしていると批判してきた。これらの外交政策は、たとえ企業が米国以外の国に本社を置いているとしても、オンライン広告、ユーザーデータの販売、その他のサービスから得られる収益を標的にしている。

・世界各国は、自国の経済においてますます重要な役割を果たす主にアメリカ企業から収入を得る手段として、これらを追求してきた。

・トランプ大統領は金曜日、複数の国が同様の税制を導入している欧州を特に指摘し、「非常にひどい」と述べた。しかし、欧州連合(EU)との進行中の貿易交渉を中止する意向は示唆しなかった。

・アメリカ企業への大規模な新税導入や経済摩擦の脅威を緩和するため、当局はこれまで、国際法人税に関する幅広い多国間協定の締結に取り組んできた。しかし今、カナダと米国はこの問題をめぐり、より直接的な対立へと向かっているようだ。

・米国政府は以前、トランプ政権の第一期目に締結されたカナダおよびメキシコとの貿易協定の対象となるものを除き、カナダからの全ての輸出品に25%の関税を課すと発表した。カナダも他の国と同様に、鉄鋼とアルミニウムの輸出に50%の関税を課されている。

・トランプ大統領は、他国に高額な関税を課すという差し迫った計画を頻繁にちらつかせてきたが、その後、特に市場が通商の混乱を懸念してパニックに陥ると、撤回してきた。大統領の新たな脅しは、ほぼ全ての米国の貿易相手国に高額な関税を再び課すと予想されるわずか数週間前に発せられた。これは、4月初旬に大統領が最初に発表し、すぐに停止した、いわゆる「相互」関税である。

・トランプ大統領と側近たちは当初、90日間の期限内に90件の合意を仲介すると約束していたが、政権はこの目標達成に向けてほとんど進展を見せていない。金曜日にスコット・ベッセント財務長官は期限に関する新たな柔軟性を示唆し、政権がレーバーデー(11月10日)までに貿易交渉の大半を完了したいと考えていることを示唆した。

・「200カ国、いや、200カ国以上と言えばそれまでだが、そんなことは不可能だ」と大統領はホワイトハウスでの記者会見で述べた。「そのため、ある時点で、今後1週間半か、あるいはそれ以前に、書簡を送るつもりだ。多くの国と話し合い、米国でビジネスを行うためにいくら支払わなければならないかを彼らに伝えるつもりだ」

・カナダと米国は今月初め、「30日以内」、つまり7月20日頃に新たな貿易協定を締結すると発表した。しかし、友好的な雰囲気やトランプ氏がカーニー氏を好んでいることを示す明らかな態度にもかかわらず、貿易交渉は決して単純なものではないという兆候があった。

・デジタルサービス税は、両国間の貿易関係における多くの問題の一つに過ぎません。トランプ氏は、例えばカナダの乳製品や銀行セクターにおけるアメリカ企業の競争障壁について、幾度となく不満を述べてきました。また、トランプ氏はカナダが51番目の州になるという構想を繰り返し示唆しましたが、カナダ当局は繰り返しこの考えを拒否しています。

・「カナダにとってはるかに良い取引だと思うが、それは彼ら次第だ。彼らは多額の関税を支払わなければならないだろうし、ドーム建設にも多額の費用を支払わなければならないだろう」と、トランプ大統領は710億ドルで「ゴールデン・ドーム」として知られる防空システムにカナダを組み込むという自身の提案に言及して述べた。

・しかしここ数日、トランプ政権は、アメリカ企業への課税計画を巡る各国への報復という、これまでのような強硬な脅しを控えているように見えた。共和党議員らは数週間前から、カナダなどの国がアメリカ企業を標的とした新たな課税を阻止することを目的とした、いわゆる「報復税」と呼ばれる新たな税制を盛り込む計画を立てていた。

・共和党の条項は、デジタルサービス税など、米国企業に対する差別的と米国がみなす税金を徴収している国に拠点を置く企業を標的としていた。しかし、ウォール街の投資家はこの報復税にパニックを起こし、ベッセント氏は先進国との合意で米国企業に別途の外国税を課さないこととなった後、最終的に議会にこの条項の削除を要請した。

・主要7カ国(G7)による法人税に関する合意はデジタルサービス税には適用されず、カナダ政府は数週間にわたり、課税によってアメリカ企業から資金を徴収したいという意向を堅持してきた。

・カナダのフランソワ・フィリップ・シャンパーニュ財務大臣は先週、カナダ政府は主要7カ国首脳会議やそれ以前のワシントンでの会合で「かなり長く、広範囲にわたる議論」の中でアメリカ側に対しこの税金について説明したと述べた。

・シャンパーニュ氏はオタワで記者団に対し、「我々は今後もこうした議論を続け、主張して​​いくつもりだ」と語った。
記事で挙げられている「報復税」とは前述した第899条項のことですけれども、トランプ大統領は、カードを一枚残らず持っているどころか、「報復税」という新たなカードを加えようとしています。

アメリカが不公正と見做せば発動される「報復税」。先ごろ報じられたフェンタニル問題含めて、石破政権は早急な手当をしないととんでもないことになってしまうのではないかと思いますね。



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